ワンピース
□戦場にて5
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ビキビキ―――ドォン!!
「熱ッ…!?」
「フッフッフ、地下から回り込んで来たのか!」
目の前の地面から、マグマが吹き出すとともに、サカズキさんが現れた。
ボコボコと湧き出るマグマ。熱気だけで焼けそうだ。
「…サカズキさん?」
エースを追っていたのではなかったか?
その手には海楼石のネックレス、だった物―――引きちぎられてボロボロだ。
手錠でも鍵付きでもない。簡単に取れる。それにサカズキさんは手袋をしているから、触れる。
ほんの一瞬、隙を作れただけで十分だった。
ガリッと、その手の小石が音をたてる。
「ウミ…」
呼ばれた声の低さに、息を飲んだ。
「貴様ァ…海賊どもの仲間じゃったんかァ!!麦わらと言いクロコダイルと言い…」
燃えたぎるマグマと、ウミを見下ろす目の冷たさ―――当然だ。
「血の繋がりはないとは言え、兄弟は兄弟!避難せずうろちょろと…おかしなマネをしおってェ………許さん!!」
ボコッと勢いを増したマグマ。
その向こうに闇が見えて、はっと我に返る。
ウミはポケットのナイフを握った。
サカズキさんは、正しい。
ウミは、海軍のためにここにいる訳ではない。
物語を変えて、エースは逃げ、白ひげはまだ生きている。
ウミは決して、正義ではない。
海賊でもない。
ただ『明日』が欲しかった。
ついさっき、ルフィの覇気で気絶するまいと自分の手を刺したナイフ―――投げようと振りかぶる。
「それしきの刃が!わしに効くかァ!!」
うごめく闇に向かって、ウミはナイフを放った。
サカズキは、知っていた。
少女の腕が上がらない事を。
サカズキは、知らなかった。
それが、左腕だけだとは。
少女の右手から投げられたナイフは、サカズキをかすめもせずに、その向こうに消えた。
マグマは少女の腕より下に―――上がらないと思っていた分、わずかにそれる。
「あ゛ぁアッ!!」
かすっただけでも、ただの少女には大事だ。
「ガープ、やめろ!ウミは無事だ!!」
黒ひげ達と対していたガープ。孫娘に危害があって、我を忘れてサカズキに攻撃しかける。
「あれが無事なものかァ!!」
「今は黒ひげが第一だ!!誰か…早く黒ひげに海楼石の手錠を嵌めろ!サカズキ、やめろォ!!」
ガープを押さえるセンゴクも、事態に戸惑っている。
「うゥ…そうやってわしを押さえておけ、センゴク!でなければわしゃァ………サカズキを殺してしまう!!」
「…バカめ!ドフラミンゴ、サカズキを止めろ!!」
命は無事でも、少女が大火傷をしたのは間違いない。
「フッフッフ、大将が何やってんだァ!?」
少女とサカズキから少し距離をとって、ドフラミンゴは笑う。
「ドフラミンゴ…貴様もか!?」
「おいおい、嬢ちゃんがその海楼石をジンベエにやったのは、随分と前だろう?頭に血が上ったにしても…これが海軍大将かァ?フッフッフッフッフ!!」
「あァ!?何をほざく!わしに刃を向けおった…長年海軍に世話になった恩を仇で返したモンに、何の容赦もいらん!!」
ボコボコと再び膨れ上がったマグマが、今度こそと、ウミを狙う。
「やめろォ〜〜〜!!」
叫んだのは、若い海兵。
「やめましょうよ!!」
サカズキと少女の間に立ち塞がる。
「ウミさんが!何をしたって言うんです!?ガープさんを…僕達を心配して!黒ひげを何とかしようとしただけじゃないですかァ!!」
「…誰じゃい、貴様ァ?」
「今だって!ウミさんはただ『生きよう』としてるだけじゃあないですかァ!!」
ぼろぼろと泣きながら、鼻水まで出しながら、海兵―――コビーは叫ぶ。
次々と聞こえては消えていく声達。
覚醒した見聞色の覇気で聞こえたのは、兵士や海賊達のものだけではない。
―――生キタイ。
怖イ。
生キルノハ、怖イ。
ケレド『明日』ガ欲シイ。
コビーには、確かに聞こえたのだ。
コノ世界デ生キルナラ―――
『何モ知ラナイ明日』ガ欲シイ。
『家族』ガ欲シイ。