ワンピース

□モビー・ディック号にて
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「よぅ、マルコ!」

声をかけられて、不快になった。
いや、そもそもこの男が自分達の船にほいほい気軽に来る事自体が、不愉快だ。
「んな怖い顔すんなよ」
マルコの渋面など気にも止めず、やって来た男、赤髪のシャンクスはへらへらと笑う。





訪問の連絡かあったのは数日前。

平穏に―――海賊のわりには平和に過ごしていたここ最近。退屈だ、島はまだか、敵襲はないかとぼやく末っ子を、働けと蹴り飛ばした時だった。

何の用かねぃ…?

マルコにとってあまり喜ばしい客ではないが、オヤジが決めた事だ。
ため息と、軽く首を捻るだけ。










そうしてやって来た赤髪は、オヤジの所には行かず、まずマルコのもとへ。

「さっさとオヤジの所に行けよい」
そしてさっさと帰れ。
はっきり言って自分を勧誘してくるこの男は、苦手だ。覇気で気絶してしまった連中の後始末も面倒臭い。
「冷てぇなァ…それはそうとマルコ」
無意識に、眉間のシワが深くなる。どうせ次の言葉は決まっている。

おれの船に乗らないか、と―――

「おまえに!ラブレターだ!!」



「………」



目の前に差し出されたのは、小さなピンク色の封筒。

ラブレター?

…この男が?



瞬間、ぞわりと悪寒が走る。

そんな趣味嗜好の対象にされていたのか!?

ザザァッと、今までにない勢いで後退った。
「エース!あれ燃やせよい!!」
そして末の弟、メラメラの実の能力者に躊躇なく叫んだ。
「え…シャンクス燃やすのか!?ダメだろ!シャンクスはおれの弟の恩人だぞ!!」
見事に空気を読めないエース。いっそ赤髪ごと全て燃えてしまえば良い。

「………ぶはっ!おいおい…おれからじゃねェぞ!」
ぽかんとした後、吹き出した赤髪。肩を震わせて笑われる。
「マ、マルコ…腰引けてるぜ!ぶふぅ…ははははは!」
「鳥肌がすごいぞ…」
まわりにいたサッチやジョズにも。
「だっはっはっ!確かにおれが書いたら気持ち悪ィな!おれだってイヤだ!!」
爆笑された………勘違いした自分が恥ずかしいやら、腹立たしいやら。

「…何なんだ」
「だから、ラブレターだよ!イーオンナからな!」
「それを先に言えよぃ…」

とりあえず受け取った封筒。
淡いピンク色の紙は、よくよく見れば色褪せている…?

「良し、じゃあな!」
ひらりと片手を振って、赤髪は自分の船に戻っていった。





は?

「おい!オヤジに会わねェのか!?」
慌てて叫ぶが、モビーの甲板から見えたのは、手を振る赤髪。
「届けモンに来ただけだ。白ひげにも言ってある。確かに渡したからな〜!あ、マルコ」
少しずつ離れていくレッド・フォース号。
「何だよい?」
素直に聞き返してしまった。
「おまえ、おれの船に乗らねェか?」
「………お断りだよい!!」

やや遅れてしまった反応に、またしても笑われた。










さて。

受け取ったは良いものの、この手紙は何なのか?

差出人は女らしいが、名前はない。時おりファンだとか、嫌がらせだとかが届く事は有るが………。
何しろ、四皇赤髪が自ら寄越した物なのだ。それなりに意味がある…はず。



とりあえず中身を見なければ始まらない。
慎重に封を開ければ、封筒と同じくやや褪せたピンク色。

そこに書かれていた言葉を見て、マルコは一瞬固まった。



「見せろよ。何て書いてあるんだ?」
覗き込んできたサッチに、いつものようにひと蹴り―――いつものように見えるように。
「うおっ、と…」
軽くかわされる。
「覗くなよい!」
「気になるだろ〜?何しろイーオンナからだ!」
「…赤髪の嫌がらせだ。馬鹿馬鹿しい」
「えー?つまんねェ!!」
「おれもつまんねェ!シャンクスすぐ帰っちまった!」
叫ぶサッチと、それに同調するエース。二人が調子に乗るとロクな事にならない。

「…そんなに暇なら、仕事をやるよい」
にやりと笑えば、相手は顔を引き攣らせる。
「あ、おれ仕込みあっから!」
「あ、サッチずりィ!おれも仕事が―」
「そうだねぃ…溜まりに溜まった報告書があるはずだ。暇なはずかないよい!仕事しやがれ、馬鹿エース!!」
見事な逃げ足を見せたサッチ。置いていかれたエースに、蹴りのそぶりを見せて怒鳴れば、ダッシュで船内に退散した。



小さな手紙は、ポケットの中へ―――





オヤジなら、きっと笑い飛ばす。

………笑い飛ばしてはいけないから、マルコに届けられたのか?

どういう女からなのか、赤髪からちゃんと聞けば良かった。
それに何故、古ぼけている?



サッチと、スクアード―――



マルコには笑い飛ばす事も、無視する事も出来ない。










数日後、悪魔の実を見つけたサッチ―――嫌な予感しかしなかった。


 

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