ワンピース
□レッド・フォース号にて
1ページ/1ページ
それは、戦争が始まるずっと前―――麦わらのルフィの手配書が出て、少し後。
新世界のとある島。
四皇赤髪海賊団は、珍しい客を迎えて宴の真っ最中だった。
「お〜い、ミホーク!飲んでるかァ?」
「あぁ…」
客人に絡むのは、この海賊団の船長、赤髪のシャンクス。
それに静かに応えるのは、本来ならここにいるはずのない七武海、鷹の目のミホーク。
「おまえがこれを知らせてくれるとは………妙な縁もあったもんだ」
シャンクスが眺めているのは、一枚の手配書。
麦わらのルフィ―――三千万ベリー。
手配書なのに、そこに写る少年は満面の笑みだ。
それを見て、シャンクスも同じく少年のように笑う。
「それにしてもルフィ、でかくなったなァ」
早く来い。
会うのが楽しみだ。
こんなに美味い酒はなかなかないと、船長をはじめ赤髪海賊団の昔からのメンバーはご機嫌だ。
「ウミもでかくなってんだろうなァ。十八くれェだからこうボ〜ン、キュ、ボンッて………まさかチビのままじゃないよな?それはちょっと…あ!」
各々が好き勝手に飲んで騒いで盛り上がる中、一人ぶつぶつ言っていたシャンクスは、急に声を上げた。
「おい、ベン!」
呼ばれたのは、副船長。
「あれだ、あれ!あれ、どこにやった?」
「…あれじゃあわからん」
船長から少し離れたところで静かに飲んでいたベンは、呆れ気味にため息を吐く。
「あれだよ、あれ!ウミがくれたやつ!!」
「あぁ、ワインだったか?」
「それだァ!!」
どこにしまったかなんて、シャンクスは知らない。知らないが、ベンに任せたのだから必ずある。
ややあって、優秀な副船長はちゃんとワインボトルを手に戻って来た。
「あんたに言われた通り、厳重に鍵付きで閉まっておいたからな…味はわからんが、状態は良いはずだ」
「そんな事言ったか?まぁ十年物だ。やっと飲めるぜ!」
十年前の少女の言葉を思い出す。
『十年経って』
『嬉しい事があったら』
間違いなく、この手配書の事だろう。
違ったら、それはそれでその時だ。
あの少女は、今はどうしているのか?
ルフィと共に海に出たなら、いずれ会える。まさか海軍にいるなんて思いもしない。
「お、美味ェ!良い渋味だ」
「十年物の赤ワインか…」
興を惹かれたのは、ミホークだ。しかし、シャンクスが許さない。
「わりィな。これはやれねェ」
「………狭量め」
ボトルのまま煽るシャンクス。分ける気は全くない。
「十年も前にイイ女から貰ったんだ。そう簡単にやれねェよ。滅多にいないタイプでなぁ」
「ぬしの女の話に興味はない」
「お、何だよ。ウミは面白い奴だぞォ?」
「………それは、ぬしが十年前にフラれたと言っていた女の名ではなかったか?」
「フラれてねェよ!十年後に船に乗せるってだなぁ―」
絡み始めたシャンクス。
ミホークもこれは頂けないと、離れようとする。
「頭、そろそろ―」
「あ?何だ、こりゃ?」
言っても聞かないだろうが止めようと、ベンが声をかけた時だった。
「ん〜?何か書いてあんぞ?」
何かに気を取られたシャンクスの隣から、ミホークはさっさと離れた。
空になりつつあるワインボトルを翳して眺める様子は、端から見れば酔っ払いの奇行だ。
「手紙…?」
ぽつりと一声呟いた後、シャンクスは残りのワインを一気に飲み干した。
そして、そのラベルを剥がそうとする。
「あぁ、うまく行かねェ!ベン、これ剥がしてくれ!」
「何か隠してあるのか」
シャンクスの片手ではなかなか出来ず、ベンに変わる。
「………頭、これは確かに、十年前にウミから貰った酒瓶だよな」
ラベルを剥がしたベンは、一呼吸置いてから確認する。
「何があった?」
「手紙だが…」
ラベルの裏から現れたのは、淡いピンク色の紙。色褪せているが、綺麗に折り畳まれて封がしてある。
表書きには―――
『不死鳥マルコへ』
この酒瓶は間違いなく、あの時、あの村で、あの少女から受け取ったもの。
十年前から、今に書かれた小さな手紙―――
「おい、開けるな」
「………わかった」
封を開けようかどうか。迷っているベンの手を、シャンクスが止める。
「あー…、何か知らねェけど、まんまと託されちまったなァ」
妙な少女を思い出して、シャンクスはにやりと笑った。
この手紙の意味など知らない。わからない。けれど、自分は少女の思惑通りに動くのだ。たぶん、そのほうが面白い。それに、少女の思いを無視したりしない。
そうして、小さな手紙はきちんと宛て先へ届けられたのだ。
まだ、サッチが殺される前に。
まだ、ヤミヤミの実が見つかる前に。