ワンピース

□レッド・フォース号にて
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それは、戦争が始まるずっと前―――麦わらのルフィの手配書が出て、少し後。





新世界のとある島。

四皇赤髪海賊団は、珍しい客を迎えて宴の真っ最中だった。

「お〜い、ミホーク!飲んでるかァ?」
「あぁ…」
客人に絡むのは、この海賊団の船長、赤髪のシャンクス。
それに静かに応えるのは、本来ならここにいるはずのない七武海、鷹の目のミホーク。
「おまえがこれを知らせてくれるとは………妙な縁もあったもんだ」
シャンクスが眺めているのは、一枚の手配書。

麦わらのルフィ―――三千万ベリー。

手配書なのに、そこに写る少年は満面の笑みだ。
それを見て、シャンクスも同じく少年のように笑う。
「それにしてもルフィ、でかくなったなァ」
早く来い。
会うのが楽しみだ。
こんなに美味い酒はなかなかないと、船長をはじめ赤髪海賊団の昔からのメンバーはご機嫌だ。

「ウミもでかくなってんだろうなァ。十八くれェだからこうボ〜ン、キュ、ボンッて………まさかチビのままじゃないよな?それはちょっと…あ!」

各々が好き勝手に飲んで騒いで盛り上がる中、一人ぶつぶつ言っていたシャンクスは、急に声を上げた。
「おい、ベン!」
呼ばれたのは、副船長。
「あれだ、あれ!あれ、どこにやった?」
「…あれじゃあわからん」
船長から少し離れたところで静かに飲んでいたベンは、呆れ気味にため息を吐く。
「あれだよ、あれ!ウミがくれたやつ!!」
「あぁ、ワインだったか?」
「それだァ!!」

どこにしまったかなんて、シャンクスは知らない。知らないが、ベンに任せたのだから必ずある。



ややあって、優秀な副船長はちゃんとワインボトルを手に戻って来た。

「あんたに言われた通り、厳重に鍵付きで閉まっておいたからな…味はわからんが、状態は良いはずだ」
「そんな事言ったか?まぁ十年物だ。やっと飲めるぜ!」

十年前の少女の言葉を思い出す。



『十年経って』

『嬉しい事があったら』



間違いなく、この手配書の事だろう。
違ったら、それはそれでその時だ。



あの少女は、今はどうしているのか?

ルフィと共に海に出たなら、いずれ会える。まさか海軍にいるなんて思いもしない。





「お、美味ェ!良い渋味だ」
「十年物の赤ワインか…」

興を惹かれたのは、ミホークだ。しかし、シャンクスが許さない。
「わりィな。これはやれねェ」
「………狭量め」
ボトルのまま煽るシャンクス。分ける気は全くない。
「十年も前にイイ女から貰ったんだ。そう簡単にやれねェよ。滅多にいないタイプでなぁ」
「ぬしの女の話に興味はない」
「お、何だよ。ウミは面白い奴だぞォ?」
「………それは、ぬしが十年前にフラれたと言っていた女の名ではなかったか?」
「フラれてねェよ!十年後に船に乗せるってだなぁ―」
絡み始めたシャンクス。
ミホークもこれは頂けないと、離れようとする。
「頭、そろそろ―」
「あ?何だ、こりゃ?」
言っても聞かないだろうが止めようと、ベンが声をかけた時だった。
「ん〜?何か書いてあんぞ?」
何かに気を取られたシャンクスの隣から、ミホークはさっさと離れた。

空になりつつあるワインボトルを翳して眺める様子は、端から見れば酔っ払いの奇行だ。

「手紙…?」

ぽつりと一声呟いた後、シャンクスは残りのワインを一気に飲み干した。
そして、そのラベルを剥がそうとする。
「あぁ、うまく行かねェ!ベン、これ剥がしてくれ!」
「何か隠してあるのか」
シャンクスの片手ではなかなか出来ず、ベンに変わる。



「………頭、これは確かに、十年前にウミから貰った酒瓶だよな」

ラベルを剥がしたベンは、一呼吸置いてから確認する。
「何があった?」
「手紙だが…」
ラベルの裏から現れたのは、淡いピンク色の紙。色褪せているが、綺麗に折り畳まれて封がしてある。

表書きには―――





『不死鳥マルコへ』





この酒瓶は間違いなく、あの時、あの村で、あの少女から受け取ったもの。



十年前から、今に書かれた小さな手紙―――










「おい、開けるな」
「………わかった」

封を開けようかどうか。迷っているベンの手を、シャンクスが止める。

「あー…、何か知らねェけど、まんまと託されちまったなァ」

妙な少女を思い出して、シャンクスはにやりと笑った。
この手紙の意味など知らない。わからない。けれど、自分は少女の思惑通りに動くのだ。たぶん、そのほうが面白い。それに、少女の思いを無視したりしない。



そうして、小さな手紙はきちんと宛て先へ届けられたのだ。



まだ、サッチが殺される前に。

まだ、ヤミヤミの実が見つかる前に。


 
 

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