ワンピース
□火拳のエース
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どうしても、赤犬の言葉は許せない。
だから、ルフィが助けてくれても、オーズか助けてくれても。仲間が助けてくれた命でも、エースは逃げる事が出来なかった。
無理やりジンベエに担がれて、急に体の力が抜けた。
海楼石?
ジンベエがいつもつけていたネックレスは、海楼石だったのか!?
歯痒い思いで見上げれば、赤犬に一撃くらわしたオヤジ―――こちらに一瞥もなく背を向けられて、グッと息を飲む。
その背中が、逃げろと言っている。
ジャラッと音をたてて、ジンベエが走りながらネックレスをはずした。これでエースは動けるが、どうするつもりか?
「これで少しでも止められるもんなら………えぇい、撃水!!」
ジュワッと、ジンベエの放ったわずかな海水は、赤犬の顔にかかって蒸発した。
「ジンベエ…これしきの海水でわしが止まると思うた、か…!?」
ガクンと、赤犬が膝をついた。
「…何だよい!?」
「大将が止まった!?」
いくらオヤジの一撃をくらっていても、赤犬があれだけの海水で止まるはずがない。マルコ達も海兵達も怪しむ。
こちらを睨み上げる赤犬の首には―――
「くゥ………海楼石かァ!」
つい先程まで、ジンベエの首にあったネックレス。
エースを止めた海楼石。
撃水とともに投げられた海楼石のネックレスが、赤犬の首に引っかかっている。
小さな海水など避ける必要もないと、赤犬はそのまま受けたのだ。
「ウミから貰うたお守りじゃ!もう随分前じゃて、海楼石だと忘れとったが………役に立ったァ!!」
これで何とか逃げ切れるかと、ジンベエは少しだけ嬉しそうに叫んだ。
「ウミじゃとォ…?」
忌ま忌ましいと赤犬は歯軋りするが、動けないまま。
「ウミ?」
担がれたままのエースは、手の中のリボンを見入る。ガサリと、隠してあった赤い紙を見て気づく。
「え…」
ついで海軍本部を見上げるが、オーズの投げた壁によって遮られ、彼女の姿は見えない。
『あなたの誇りは
言葉か?命か?
あなたの命は
誰の誇りか?』
誰、の?
おれの?
おれの命が、誰かの、誇り?
鬼の子が、誇り…?
止まった赤犬に、オヤジはさらに拳を繰り出した。
ボゴゴゴオォン―――!!
「崩壊する!海軍本部が…!!」
「崩れる〜〜〜!!」
血を流し倒れた赤犬。
崩れ落ちる建物と地面。
「完全にオヤシと隔離されちまった!!」
「広場が真っ二つに裂けた!」
「海賊達が向こう岸に!!」
先ほどよりも遠くなったオヤジの後ろ姿―――エースの、家族みんなの命を背負っている。
「………クソ!ジンベエ、放せ!自分で走る!!」
「エースさん?」
「エース!?」
「オヤジの言う通りにするさ!」
エースは自分の足で走り出した。
「…ルフィ!生きるぞ!!」
「あぁ…もちろんだ!」
おれ達は、くいのないように生きるんだ。
何年ぶりか。
ルフィの姉で、エースの妹である立場のウミ。
ともに暮らしていたルフィはともかく、エースが会ったのはほんの二回。ダダンの家と、リボンを届けた時だけだ。その存在は、意識の外…会うまで忘れていた。
ルフィだって、一緒だったのは一年ほどだと聞いている。
ウミはずっと、ジジイと一緒に海軍にいた。
それなのに―――
続いていた言葉―――まるでこうなるとわかっていたような…?
これは確かに、エースを生かすための言葉だ。
ちらりと振り返れば、壁の向こう、建物の片隅からこちらを見下ろす姿が、わずかに見えた。