ワンピース
□戦場にて3
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「こんにちは…」
口を開いて、我ながらマヌケだと自嘲する。
戦場でこんにちはも何もないだろう。怪訝な目を向けられて当然だ。
ちらりと広場に目を向ける。
白ひげは様子見なのか、構えてはいるものの動かない。ウミに遠慮してくれているなら、ありがたい。
今にも飛び掛かって来そうなガープさんと、顔を歪めているセンゴクさんには、目を細めてひと睨み―――しばらく何もしないで欲しい。
「ホホホ!お嬢さん、戦場には似つかわしくないですね。海兵でもないのに」
「ラフィット、知ってんのか?」
「英雄ガープの孫娘。海兵達のアイドルですよ。名前は…ウミ、でしたか?」
曖昧に、笑顔を向ける。
向かい合う黒ひげ海賊団―――笑ってしまうのは、恐さをごまかすため。相手に余裕に見えているなら、儲けものだ。
「度胸だけは祖父譲り………確か、一切戦えないお嬢さんだと聞いています。避難していないという事は、何かしら力があるんでしょうか?」
首を傾げるラフィットに、ウミも同じく首を傾げた。
「…いいえ。あいにく私には、普通の、一般人の体力しか、ないですね」
出来るだけゆっくりと話す。ゆっくりと、小さく。
「でも………お話くらいなら、出来ますよ」
少しずつ―――
「ゼハハハ、仲良くお喋りかァ?馬鹿馬鹿し―」
「他の、七武海の皆さんは、気が付いているみたいですけど………あなたは?」
少しずつ、変わるように。
「…何ィ?」
反応があった時点で、ウミに有利だ。
「どういう意味だ?」
「体調は、どうですか?」
「………」
ティーチには心当たりがあるようだ。馬鹿にするような態度から、こちらを警戒するものに変わる。
「ドフラミンゴさんが、言ってました。ここは力が出ないって………七武海とは言え海賊…ここは、海軍本部ですから、海賊が本気を出せるようにしておくと、思いますか?」
わずかに揺れたティーチの目。おそらく、仲間にも不調は隠している。
実際、気が付いているのはドフラミンゴさんだけだ。
ミホークさんには、海楼石は関係ない。
ハンコックさんには、ウミが教えた。
モリアはきっと、ルフィと戦った後で体調が戻っていないと勘違いしている。
くまさんは、気が付いているかもしれないが、人造人間となってしまって、自ら主張はしない状態だ。
海楼石の粉は、確実にティーチにも効いている。
「そう言えば…」
ティーチが、黒ひげ海賊団が、こちらに気を取られるように。
ゆっくりと。
「赤髪のシャンクス…彼の顔の傷、あなたが付けたって、本当ですか?」
ゆっくりと、小さな声で。けれど、はっきりと。
「…シャンクスを知ってんのか」
「十年前に、会った事があります。それ以来、さっぱりですけど…元気ですかね?」
平静を装って、ふふっと笑う。
「てめェ………何者だ?」
向けられたのは、明確な敵意。
「海軍中将モンキー・D・ガープの孫です。ウミと言います」
返したのは、この世界で幾度となく名乗った名前。
「ゼハハハハハハハ!おめェ、度胸だけは認めてやる。だがなァ………闇穴道!!」
ズズッと闇が現れた。
いくら海楼石の粉が効いているとは言え、戦えない状態ではない。そこまでの量は仕込んでいない。
ティーチのまわりの闇が、ウミに向かう。
「何の能力者か知らねェが、ヤミヤミの実の前ではすべて無駄!ゼハハハ、ハ…?」
馬鹿だ。
ウミを何かしらの能力者と勘違いしている。
確かに戦いの場にいるなら、力があると思われておかしくない。ウミも、体力はないとしか言っていない。
迫る闇を、手足で払ってみせた。
「闇が…消えた!?」
それは、ウミの首に、腕に、足に―――見えない服の下に隠れている、海楼石のおかげだ。
「何故だ!?てめェ何しやがった!!」
たったこれだけで、目を見開いてうろたえるティーチに、笑いを通り越して呆れる。
「ホホホ、それじゃあこれはどうですか?」
向けられた拳銃に、後退り―――
「おや、物理的なものには弱いようですね。ロギアではなくパラミシアですか?」
いや、ウミは攻撃の類にはすべて弱い。
「おまえら、やっちま―」
「ティーチィ!!」
割って入ったのは、白いコック服にリーゼント―――サッチだ。