ワンピース

□コルボ山にて
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ルフィがさらわれた。

ガープさんに。



あれだ。

エースだ。

それから、サボ。










私はサボの生死の真偽を知らない。あの戦争から二年後の再会までしか、知らない。
本当は生きていると、甘い予想をしている。漫画なら。

ポケットのナイフに触れる。
たったこれだけの物で、物語は変わった。変わったと言えるほどではないが。

手出しをするのが、少し怖い。

変えるなら―――





ルフィがいなくても、淋しくはない。あの強烈な存在が傍にいないのは、安心する。安心するが、思考は揺れる。

また、ジリジリと追い立てられる。これからあの戦争まで、追い込まれ続けるのだ。

何故?

どうして?

何のために?



コノ夢ハ覚メナイ。



変エルナラ、アノ時ヲ―――










「ウミ、プレゼントじゃ」

コルボ山にルフィを置いて戻ってきたガープさん。豪快という表現がぴったりな笑顔につられて、私も笑う。
綺麗にリボンのつけられた箱が、マキノさんの食堂に運ばれた。

「ところで…」

笑みが消えて、真剣な目になる。ゴクリと喉が動くのが見えて、こちらも緊張してしまう。
大きな手で、がしりと肩を捕まれた。
「おまえは、ウミだけは…」
肩が痛い。
特に治りきらなかった左肩が。

「ウミだけは、海兵になってくれぇ!!」



…あぁ、うん。そうか。

大事な孫も、孫同然の子も、海賊を目指してしまっているから。祖父は必死なのだ。

「あの」
「なんじゃ!!」
クワッと目を見開かれた。
普通に怖い。
「肩、痛いです」
「肩?」
「前に山賊に襲われた時に怪我しました」
とりあえず離して欲しい。

「な、何じゃとぉ〜!!?」

あ…しまった。

「どこのどいつじゃあ!?ワシの孫娘に手を出したのはッ!成敗してくれる!!」
ギラリと目の色が変わった。戦いの目だ。そして肩が余計に痛い。
「そ、それならシャンクスさんが倒してくれました」
「お〜の〜れぇ〜、赤髪ィ〜」
いやいやいや、シャンクスさんは助けてくれた恩人だ。

「ガープさん。私、軍人にはなれません」
「な…!?」
暴走を止めるためにも言葉を続けると、口を開けたまま固まった。
「怪我した肩があまり動きません。もともと体力もないので」
「!?」
わかりやすく青ざめて、肩を捕んでいる手がだらりと垂れた。解放されてホッとするが、まだ続きがある。
「…事務とか家事仕事なら、海軍でも働けると思います」
「!」
今度は見開かれた目が輝いている。わかりやす過ぎる。
「良し!わかった。事務官の空きを作って来よう」
え?
作って?
誰か強制的に辞めさせられる?
「や、あの、ガープさんが個人的に雇ってくださっても良いと思います」
「む、なるほど。そのほうが一緒にいられるのぅ」
嬉しそうに歯を見せて笑う様子に、暴走しないで欲しいと心中で祈る。祈るだけで、可能性は低いが。

迎えに来るまで元気でいろと言い残して、ガープさんは帰って行った。


 
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