ワンピース

□戦場にて
1ページ/6ページ


痛々しい。

処刑台のエースは、鎖に繋がれボロボロだ。
けれど、それ自体を止める事はしない。

それは、ウミの役目ではない。



「いいな、ガープ…全て伝える」
「勝手にせい。わしゃ下に―」
「センゴクさん」
ガープさんとセンゴクさんの間に割って入る。
「ウミ…まだいたのか」
「少し、エースと話して良いですか?」
「…知り合いなのか?」
「十年ほど前に、会った事があります」
センゴクさんの了承を待たずに、処刑台へ上った。

一度だけ振り返ってみれば、すぐ後ろを付いて来るガープさんとセンゴクさん。

少しだけ、笑って見せた。





「何だ?」

「あれは…ガープ中将のお孫さんの、ウミさんじゃないか?」

「火拳のエースと何かあるのか?」




ざわざわと眼下がうるさい。
この場はすでに世界中に中継されている。少しだけ、足が竦む。
すぐ下にいる三大将にも、私の行動はおかしいと思われているはずだ。

「こんにちは」
「………誰だ?」

わずかに持ち上げられたエースの顔は、薄汚れている。
血と汗と泥と、すえた臭い―――牢獄のものだ。

「…返したい物があるの」
「返す?おまえ誰だよ?」
ほんの少ししか会った事のない私など、忘れたか。これだけ年月が経てば、見た目も変わる。
「これ」
つけていた髪飾りを、はずしてみせる。

赤いリボンの髪飾り―――昔、エースが届けてくれた物だ。

「大事な物だけど、今日までで良い。だから返すよ」
「これ、は………ウミ?おまえ、ウミか!?」
後ろに繋がれた手に、無理矢理リボンを握らせた。
「おい、待てよ!ウミ!!」

余計な話は、しない。





もう随分と古くなってしまった髪飾り―――色あせてほつれた部分をその度に直して、ずっとウミと一緒だった。

忘れないために。



今日を。

変える事を。



日々に埋もれて、この時が来るのを忘れないように。

そして―――可能性をひとつ。



「…何だったんだ?」

「何か渡したか?」

「元帥も中将もご一緒だったぞ?」






目立ちたくはないが、ウミがエースと接触出来るチャンスは、まずない。

「センゴクさん」
向かい合う人は、私の一挙一投足を見落とすまいとしている。なのに、ティーチを見逃している。
「ティーチはどうしてますか?」
「…行方が知れん」
物語の通りか。
センゴクさんの目が、わずかに横に揺れる。身内にたいしては嘘が下手だ。いや、ウミにたいして…?
「インペルダウンに軍艦が一隻向かったそうですね。囚人に仲間でもいるんじゃないですか?ここで戦争が起これば、他は手薄になります」
本当は、ティーチがいないとルフィもここに来れないから、今は見逃して欲しい。

「…もはや、止められん!」



それでもウミは、止めたのだ。

ほんの少し、戦争のはじまりを止めた。










ガープさんと一緒に処刑台から降りる。

「ウミ、あのリボンは…」
「ガープさん、間違えたんですよ?」
「間違えた?」
まさかここでカミングアウトとは。
「私へのプレゼントと、エースへのプレゼント。渡し間違えたんですよ」
「何!?なんという不覚!」
「エースが届けてくれたんです」
「そうか…そうじゃったか」
下へ降りると同時に、頭を撫でられた。

ガープさんの手は、とても優しい。


 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ