ワンピース

□フーシャ村にて
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子供というものは、厄介だ。
海賊になるんだと、船に乗せろというルフィが、良い例だ。

しかしまぁ、可愛いもんだ。
どんなに無茶で無鉄砲でも、利口で大人しくても、子供らしくて可愛いげのあるものだ。



しかし―――



「マキノさん、配達が来ましたよ。とりあえずどこに置きますか?」
「あぁ、いつもより多いから…」
小さな村の小さな酒場。
料理をしているマキノの隣で皿洗いをしているのは、小さな少女。
酒の配達に気づいた少女は、手を拭いて裏口へ。マキノに言われた通りに、酒屋の配達人に酒樽を並べてもらい、金を払う。

「お皿足りますか」
「うん、ありがとう」
戻ってきたらすぐに数枚の皿を並べて、そこに出来上がったマキノの料理が盛りつけられる。
「どうぞ」
シャンクスの目の前に置かれたピラフ。もちろん美味い。

小さな少女が、厳つい海賊達を怖れるでもなし、ルフィのように懐くでもなし。
淡々と仕事をこなし、時折愛想笑いなのか、曖昧に笑う。

「灰皿、変えてきます」
おしぼりと灰皿を手に、テーブルを回っていく姿は、あまりにも子供らしくなさ過ぎる。



「あの子、よく働くな」
「あぁ、ウミちゃんね」
ウミ、か。
小さな体が、男達の間をちょろちょろとすり抜けて、灰皿を変えていく。
「とっても良い子で、助かってるんです」
にこやかに笑うマキノには、何の悪感情もない。村人達にも。妙な子供を妙だと思っているのは、シャンクスだけか。
「あんたの妹じゃないんだな」
「ルフィ君のお姉さんよ」
「へぇ…似てないな」

「血は繋がっていないので」

汚れた灰皿を回収し終えた少女。こちらを見上げる目には、これといって快、不快の表情はない。

「行く宛てのないところを、ルフィのお祖父さんに拾われました。シャンクスさん達が来る、少し前です」

なるほど。

親や頼るべき大人のいない子供は、妙に達観して大人びるものだ。



だが、しかし―――










怒っているのだと理解したのは、マキノが叫び声を上げた時。

自分の手の痛みより、ルフィの行動の愚かさに怒っている。静かに、けれど強く。
シャンクスは目の前のやり取りを―――ルフィの無茶苦茶な行動を、それを止めようとした小さな手を、低く静かに戒める様を、ぽかんと口を開けて見ていた。

小さな体から、ただならぬ噴怒が溢れている。

その怒りは、何に…?

とにかくルフィの顔と少女の手を治療しなければと、船医を探す。が、見ればすでに応急処置が施されている。

「おまえ、無茶するんだな」
その無茶の仕方も子供らしくないが。
「痛いだろ?」
「はい」
「はい、って…」
痛みに顔を歪めているものの、騒ぎ立てるでも泣くでもない。さきほどの激情はどこかへ消えて、いつもの淡々とした受け答えだ。
「もちっとあるだろ?可愛いげないぞ」
「はぁ、そうですか」
「そうだ。ガキはガキらしく甘えて泣くもんだ」
「はぁ…」

奇妙な子供だ。


 
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