短編

□砂隠れにて
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カンクロウ視点。



***



木の葉の人間自体、カンクロウの当初の印象は良くない。
主にナルトやサスケ達のせいで。自分も大人げなかったが。
里全体の安穏とした雰囲気も、馴染みのないものだ。

その少女に対しても、しかり。



中忍試験、死の森ーーー途中で近くを追い抜いていった連中がいたのには気がついていた。我愛羅の殺人に怯えていた自分には、構う余裕がなかったが。
あの殺気がこちらに向けられたら堪らない。

しかし、追い抜かれたのは気に入らない。

試験官を倒したのは、まぁ、なかなかやるな。その前のキレっぷりも…。





その後日、木の葉の街中で会った時には、度肝を抜かれた。

あぁ、こいつ殺されるじゃん。

テマリと二人、目をそらした。



………はぁ!?

我愛羅が素直に頷いている。へにゃへにゃの笑顔を向けられて、普通に話している。
知らないからか…いや、我愛羅の恐ろしさは、試験でよくわかっているはず。

「運の良い奴じゃん」

ぽつりと漏れた言葉は、本心からだ。たまたま運が良かったのだと思った。

押し付けられた団子を一串だけだが、きっちり食べた弟ーーー何故か腹立たしくなった。

恐ろしいはずの我愛羅に、何のてらいもなしに向けられた笑顔と言葉。それに答えた我愛羅。
ごく普通のやり取りだ。



自分達家族に『普通』なんて縁遠い。










うちはサスケ奪還の時には、そんな少女の事は忘れていた。
それが、実に奇妙な登場をされた。

「あれ、おまえ…って何で暗部が!?」

暗部二人を引き連れて、病院着で。切羽詰まっているのはわかるが。

ただの下忍じゃない…?

浮かんだ疑問は、さらなる衝撃に吹き飛んだ。

「キバも、怪我しないで」



怪我しないで、なんてーーー



言われた事も、言った事もない。忍者に言うべき言葉ではない。

事態の窮迫さや、暗部や少女の異常さ、その言葉。すべてが、おかしい。
こんな状況で、真剣に、心底、普通に心配している少女がおかしい。



何故、自分はこれほどまでに動揺している?





理解したのは、テマリと我愛羅の顔を見た時。

あぁ、そうか。

羨ましいというか、何というか。自分もそう思われたいのだ。
馬鹿馬鹿しい。
けれど笑えない。



『普通』ではなくても、思いはあるのだ。

家族として、兄として。










少女の兄も、なかなか食えない人物だ。
喧嘩っ早い自分より、あっさり場を治めてくれた。

少女本人は、ただの変な奴にしか思えないが。



へにゃへにゃ笑っていると思ったら、急に真剣な目になった。

砂隠れの秘技や上役達の名前が出てきて、やっぱりただの下忍じゃないと思い直す。



「我愛羅は守れない」



………上等じゃん。



赤秘技だろうが、黒秘技だろうが。必要ならやってやる。



とりあえずーーー










「我愛羅、今度は焼鳥屋に行くじゃん?」
カンクロウの誘いに素直に頷く我愛羅。

ちなみに今は任務帰り。
甘味屋にいる。

「俺おすすめのハンバーグ定食の店でもー」
「カンクロウ…」
少し呆れたように、テマリはため息まじりだ。
「何じゃん?」
「おまえ、最近どうしたんだ?我愛羅を連れまわして食べ歩きしてるって噂になってるぞ」
「我愛羅にうまいモン食わせたいだけだ」
「…そうか」
テマリの顔がちょっと引き攣った。急に下の弟を甘やかしだした上の弟が、少し気持ち悪いだなんて、口にはしない。
「我愛羅だって嫌がってないじゃん?」
「あぁ………嫌じゃない」
少し俯き加減の我愛羅が可愛いだなんて、言うまでもない。



***

彼はお兄ちゃんしたいんですよ、きっと(笑)。

 

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