短編
□甘味屋にて
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いい加減、甘栗甘は飽きた。
いや、決して美味しくないわけではない。断言する。美味だ。
ただイタチさんに付き合って、三日に一回くらいのペースで通っていれば、飽きる。
イタチさんは飽きないのか?
………飽きるわけないか。
なので本日は違う甘味屋へ。
「すいまー」
「お勘定、頼む」
店員さんを呼ぼうとしたら、他のお客さんの声が被った。
「こんにちは」
「…あぁ」
アスマ先生だ。
妙な間があったが、何だ?
「アスマさん、すいません。ご馳走様です。ゴホゴホッ」
「いや、気にするな」
先生の大きな体の影から、ハヤテさん。
ーーー忘れてたぁッ!!
ハヤテさん、すっかり忘れてました。ごめんなさい。ホントごめんなさい。その後お体の調子はいかがデスカ!?
目があって、固まる。
「………」
あ、ハヤテさんのほうが目をそらした。
「あのぅ、怪我はもう良くなりましたか?」
「もう大丈夫です。ゴホッ…任務に支障ありません」
目をあわせてくれない。
いたたまれない。
「あー、その」
怪我か、幻術か。
どっちだ?
「いえ、すいません。あの映像はちょっとその、ショックが………ゴホゲホッ」
幻術だ。
「…大変申し訳ありません。確実にしようと思ったとはいえ、ちょっとその、すいません。夕顔さんにも」
紅先生にも。
ちらりとアスマ先生を伺うが、幻術の内容は知らないのか、不快なそぶりはない。知らないなら知らないままで。そのまま話に入ってこないで。
「あら、奇遇ね」
ヒイィッ!?
店の奥から紅先生。
会えたのは嬉しいです。今日もお綺麗デス。でもタイミングが最悪デス!
任務帰りに三人で休んでいたらしい。お疲れ様です。
さっさとこの場から離れたい。
「すいません、三色団子とみたらし、十本ずつください」
そして早くしてクダサイ。
「全部食うのか?」
「いいえ、差し入れデス」
「誰にかしら?」
「…カカシ先生とサスケに」
修業にお邪魔します。
どれだけ強くなってるか、確認だ。ついでに参考にするのは難しいが、私も修業。
お団子はイタチさんにだが。
…あれ?
イタチさんって、どこまで知られてるの?
紅先生は知ってるみたいだ。ハヤテさんは知らないはず。じゃあ、アスマ先生は?
わしゃっと頭を撫でられて、見上げる。
あ…
そう、か。
どこか見据えられるような目に、理解した。
この人は、私を警戒している。信用してない。
まだ、見定めている途中。
私と、紅先生やカカシ先生。子供達や三代目。仲間達や里の事。
見据えて、見定めてーーー
怖い。
わずかに息を飲んだ。
疑われるのは、傷付く。
そして、それ以上に恐ろしい。
私みたいな怪しい子供がいたら、疑うのが当然だ。三代目や紅先生みたいに信じてくれるほうが珍しい。これが普通だ。
けれど、彼の刃はこちらに向いているのだと認識すると、怖い。
「お待たせしました〜」
甲高い店員の声にハッとする。
チャリッと音がして見れば、アスマ先生がお支払いしているではないか!?
「ぇ、あの…」
「気にするな」
もう一度、わしゃわしゃっと撫でられる。
「感謝してる」
ガサッと袋を差し出されて、受け取るしかない。
「親父の事も、里の事も」
「そうですね。木の葉崩しでは助けられたようで…ゴホン」
あぁ、知ってる。
その声と言葉で判断する。
アスマ先生はカカシ先生と同じくらい、ほとんど知っている。そしてハヤテさんは、木の葉崩しの時に私がいた事しか知らない。
見れば、いつも以上に優しい微笑みの紅先生。
なんて、優しい。
「…感謝、してます」
自然、口元が緩んだ。
目の前のくわえ煙草がわずかに傾く。首を傾げたのだ。
「戦争を知らずにいれた事。平和に生まれて暮らせた事」
私が生まれた場所は、とても幸せだ。
「戦ってくれた人達がいるからだと、理解しているつもりです」
戦った大人達がいるから、今がある。
いろいろ後始末に失敗した感じがあるケド。
こんなに優しい刃なら、怖くない。
「アスマ、煙草終わってるわよ」
「あ?あぁ…」
くわえたままの煙草は、すでにフィルターまで火が迫っている。始末した後、少女の行ってしまった方を見やる。
「あんな事を言われたのは初めてです」
「だな」
咳をするのを忘れているハヤテ。アスマと同じ方を見ている。
もうすでに、小さな後ろ姿はない。
忍という生き方をしていて、表立って感謝される事など少ない。まして自分達が戦場にいた頃に、まだ生まれてもいないくらいの子供に言われるなんて。
まっすぐに向けられた少女の微笑みが優し過ぎて、目をそらしかけた。
良い子でしょう、と笑う紅に、アスマもハヤテも頷いた。
***
アスマ先生はちょっと心配なだけです。子供とはいえ、自分の大事な人達の近くに正体不明な妙なの(笑)がいるから。
親しくはないし、戦ってる現場を見ていないので。
最終的には優しいですが。