短編

□日向家にて
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退院してから数日後。



***



日向のお屋敷は、敷居が高い。

いや、もう慣れたけど。

門の正面ではなく、その脇。通用口の小さな木戸を、トントン、勝手にガチャリ。
「お邪魔しま〜す」
ヒナタ、何処かな?
お部屋?
稽古場?
中庭か?

何せ数ヶ月ぶり。

あの微笑みで癒されたい。

おかえりって言って?



「………」



ネジ。

戸を閉めたところで、ネジ。

こいつ、体に穴あいたんじゃなかったか?もう退院したのか?何で立ってるんだ?何で歩いてるんだ?てゆーか睨むんじゃねぇよ。

「おまえ、ヒナタ様ならー」
「ウッサイ。寝てろ」
おまえ呼ばわりすんな。
あんたに会いに来たんじゃないんだ。
「は?おい!?ちょ、ちょっと待てッ!?」

私は、ネジを担いだ。

暴れんな。
落ちるじゃないか。

こいつの部屋、何処だ?



「………」



今度は、ハナビ。

ヒナタと一緒の時に、ちょっとだけ会った事がある。キリッとした目の可愛い女の子。
おばさんーーーいや、お姉さんの事、覚えてる?

…物凄い瞬きをしている。
目をこすっている。
首を傾げている。

「え…?え、あれ?」
戸惑っている。
「ハ、ハナビ様!?」
一層暴れるネジ。
軽く傷口を掴んでやった。

………傷、治ってないな。

「ウッ!?」
何やら耐えているネジは無視。
「ハナビちゃん、久しぶり」
「あの、ネジ兄さん?ですよね?え、あれ?」
確認しつつも、首を傾げまくりの少女。



ーーー可愛いッ!

ちょ、何て可愛いんだ!
日向の遺伝子、万歳(女子限定)!!



「あのね?」
混乱している少女に、私は優しく言った。
「ネジ兄さんは大怪我をしてて、あと一、二ヶ月は安静が必要なの。歩いてたら遠慮なく布団にぶち込まないといけないの」
「え!?もう大分良くなったんじゃあ…」
「無理とかやせ我慢というものだよ。ネジ兄さんは、修業バカだから」
「おい!?いい加減な事を言うな!ちゃんと医療班の治療をー」
「ウッサイ。黙れよ。ハナビちゃん?ネジ兄さんを見かけたら、白眼とか柔拳とかで布団にぶち込むように、ネ?わかった?」
「え、それはー」
「わかったよネ?」
「はい…?」

無理矢理ですが、何か?





ハナビの手前か、大人しくなったネジ兄さんを、自室に寝かせた。

案内してくれたのはハナビ。
布団を敷いたのもハナビ。
良い子だなぁ。

「ハナビ様、申し訳ありません」
「ううん。ネジ兄さん、早く良くなってくださいね」

何て可愛いんだッ!!

クソッ、何でこいつが看病されてるんだ!?

「診せなさい」
「医療班がちゃんとー」
睨んでやったら、黙った。
医療班が診てても、無茶したら無意味。

大体、汗臭いんだよ。
治りきってない奴が、体動かしてんじゃねぇよ。

顔色悪い癖に。
目まで白い癖に。
ネジの癖に。










「え?」

一通りネジの治療をしてやった後、私は愕然とした。

ヒナタは、いない。

お父さんと一緒に、何処ぞに出掛けているらしい。夜まで戻らない。



「………」



今の私は、死んだ魚。

脱力感に苛まれる。

「だから、最初に言おうとしたんだ。おまえが訪ねてくるのは、ヒナタ様しかいないだろう?」

返す言葉もない。



………帰ろう。

で、明日また来るんだ。
絶対!



***

ネジ兄さんに反射で(?)キレたヒロイン。
被害者ハナビ。

 

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