短編

□病院の前にて
1ページ/1ページ


キバ視点。



***



最初、そいつが誰なのか、わからなかった。

班編成の説明会で、イルカ先生が読み上げる名前を聞いて、キバは首を傾げた。
「錦って………どんな奴だ?」
シノはわかる。何気に強い。ヒナタも何となく、日向=白眼は有名過ぎる。

赤丸と顔を見合わせていたら、視線を感じた。振り返って目が合って、あぁこんな奴いたな、と納得。
大人しい真面目な奴。自分とは正反対のタイプだ。

一応、愛想笑い。
相手もちょっとだけ笑った。
このくらいの社交術くらい、キバにもある。

やりにくいかも。
そう思ったのは内緒だ。



担当上忍、女かよ!

うちの母親といい姉といい、自分はツイてないと思う。
唯一男同士のシノはあんまりしゃべらねぇし。
ヒナタは何でかビクビク、トロトロしてるし。
もう一人も、真面目な女子なんて、相性悪いに決まってる。

半ば投げやりに、紅先生に突っ込んでいった自分と赤丸。
まさか助けられるとは思わなかった。何だかんだで、そいつの言う通りに、勝利。
ここで落第したら、母ちゃんと姉ちゃんに何されるかわからねぇ…マジでやばかった。

帰り道に礼を言ったら、へにゃりと笑った。

うん、良い奴だ。



赤丸だって懐いてる。





それが、どうしてーーー



大体、中忍試験の辺りから、様子がおかしかった。本選なんて特に。
思い返してみて、改めて思う。
今更気づくなんて。シノやヒナタは、もっと前から気づいていたんじゃないか?

だとしたら、自分は仲間失格じゃねぇか。










何も出来ないまま、キバは病院を出た。

「アンッ!」

待たせていた赤丸が駆け寄ってくる。
こいつだって心配してるのに、あいつは何も言わない。

「じゃあ俺は予定あるからよ」
無理矢理連れてきたシカマル。何故こうも平然としていられるのか?
「なぁ」
「まだあんのかよ。手短に頼むぜ。チョウジ待たせてんだ」
「あ、ワリィ。すぐ済む」
チョウジを怒らせるわけにはいかない。ちょっと悪い事した。
「何で平気なんだ?これで入院、二度目だぜ?」
自分が騒ぎ過ぎなのか?
「別に平気じゃねぇよ。心配くらい、するっつーの」
返ってきたのは、予想外の言葉だ。首を傾げてしまったキバに、シカマルは頭を掻きながら、続けた。
「例えば…うちの親父が怪我して帰って来ても、おふくろは余計な事聞かねぇ。親父だって言わねぇし。怪我の手当はするけどな」
シカマルにとって、それは日常だった。忍者として生きている親と、その周囲。それをずっと見て育ったのだ。
その点では、キバも同じはず。
「そりゃそうだけど…」
キバの中、納得しかねる部分は、一体何か?
「おまえ、あいつの心配してんのか?それとも、自分に何にも言ってくれねぇのが、悔しいのか?」
「へ?」
「悔しいなら、あいつの言う通り、強くなるしかないんじゃねぇの?」



………見透かされた気分だ。

気に入らないのは、気付かなかった自分。助けにならない、頼りない自分だ。



「アンッ!」
飛び付いてきた赤丸をキャッチする。
「ッと、赤丸?」
「アンアンッ」

ーーー強くなろうよ?

「…あぁ、そうだな」
良し、と気合いを入れる。
「サンキュ、シカマル」
「いや。ところでよ」
急いでいるはずのシカマルに止められる。
「これからチョウジと修業なんだ。一緒にどうだ?」
「………珍しい」
「めんどくせぇけど、流石に三度目はなしだろ?」

三度目ーーー?

「…確かに、それはねぇな」

目を見合わせて、お互い笑った。





「しかしチョウジが修業とは…明日あたり嵐じゃね?」
「それ、本人に言うなよ」
「言わねぇって」
「あいつから言ってきたんだぜ。ちょっと前から気合い入っててよ」
「へぇ、チョウジから………やっぱ嵐だな」
「だからー」



「………」



目の前に、チョウジ。

ポテチを食べながら、ちょっと悲しそうにしているチョウジ。
なかなか来ないシカマルを探して、ここまで来たのか?
「よ、よう」
ギクシャクと手を上げて声をかけてみるが、何のごまかしにもなっていない。明らかに今の会話を聞かれた。

「いいんだ」
ぽつりと呟かれる。
「キバにひどい事言われたって、みんなに言っておくから」

え?

「キバの評判、がた落ちだね」

にっこり笑顔だ。



「………」



「ちょ、待て。何だそれ!?」
チョウジが黒いッ!?
「シカマル、早く行こう」
「あ、あぁ」
「シカマル、スルーすんなよッ!?」
「じゃあね」
「じゃあね、じゃねぇッ!俺も修業すんだよ!!」
行こうとする二人を追い掛けるキバ。

その腕の中ーーー事態を見ていた赤丸は、ちょっと不安になった。
この相棒で大丈夫だろうか?



***

何か正しく友情っぽい話…背中痒くなってきたのでチョウジに落ちを。本当は黒くないはず。

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ