短編

□アカデミーにて4
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移動教室だなんて忘れていた。
サスケは息を切らして教室に駆け込んだ。
「あ、サスケ君ー」
自分にかけられる声を無視して、静かな席を探す。

窓際の一番前が空いている。

サスケがそこに腰掛けると、隣の席の少女と目があった。
しかし、それだけ。
クラスの女子にわざわざ構う気はない。それに、このクラスメイトは騒がない。静かに授業が受けられれば良い。

サスケも少女も、思ったことは同じだった。










移動教室での授業は、実験。
火薬を使った、煙玉の調合だ。

…つまらない。

サスケが欲しているのは、殺人術。あの男を殺す手段だ。



「キャアッ!」
ガシャンという音とともに、高い声。
「うわ、ヤベッ!」
「ナルト、何やってんの!?」
何て事はない。ドベのナルトが、いつものヘマをやらかしたのだ。
「片付けなさいよ」
「わかってるってばよ」
「ナルト、待てー」

「ぁ…」

すぐ隣で上がった吐息ほどの声に、目線を向ければ、表情を凍らせた少女がいた。










ーーー学校。



移動教室。

実験。

割れたビーカー。

ガラスの破片。



それを拾おうとして、指を切る男子。

止めようとして、間に合わなかった先生。

窘める女子ーーー










『かつて』の私。










「いってぇ〜ッ!」
「ナ、ナルト、大丈夫か!?」
「指切っただけでしょ?イルカ先生も落ち着いて」

事態を見入る少女の唇は、わずかに震えている。



………何だ?

サスケは、少女の目が、ここではないどこかを見ている事に気づいた。



そして、暗い。



それは、己自身にもあるもの。

否。
似て否なるもの。



憎しみ?
悲しみ?
孤独?
恐怖?

何だ?



ただのクラスメイト。
特筆すべき事のない存在。
あえて言うなら、かつて昼食を忘れたサスケに、おにぎりを分けてくれた。他と違って騒がない女子。

辛い事など知らずに、平穏に暮らしているはずの人間に、闇を見た。

それは、他者にははかり知れないもの。



瞬間、ゾクリと悪寒がした。

目の前の人間は、自分が思っていたものではないかも知れない。あの男の真実を知った時と重なる。



「平気だってばよ」
「あぁ、片付けは先生がするから、置いておきなさい」

少女は、ゆっくりと目を閉じた後、何かに耐えるように深呼吸をした。

そして、開けられた目の中には、闇ではなく悲しみのようなもの。唇は、緩く孤を描いている。



あの男に見たものとは違う何かが、そこにはあった。

微笑みが、哀しい。



しかし、それもわずかな間。

イルカ先生が片付けを終えれば、少女は他のクラスメイトとともに授業に戻った。



思わぬ闇を見せた同級生。

もしかしたら、彼女の持つ闇や孤独のようなものは、己よりも深く暗いかも知れない…?



***

目撃者サスケ。
ヒロインの暗い部分を感じつつ、自分とは違う何かを見た、かも。

 

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