短編
□アカデミーにて3
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そろそろ、外でのご飯は限界だ。
寒い。
さすがに冬は、教室でお昼を過ごしている。今年ももう外は無理かな、なんて思いながらお弁当を片付ける。
吹き付ける北風に身を震わせ、校舎へ戻ろうと腰を浮かした。
………何か、黒っぽい点が動いている。
腰掛けていた丸太の端っこ。薄茶色の切り口のあたり。
ただの虫とは違う事に、気づいてしまった。
キカイチュウ…?
思わず周りを見渡すが、シノらしき姿はない。
間違いなくあの蟲だよな?私はまじまじと顔を近づけて見た。うん、間違いない。
もう一度あたりを見るが、やはりシノはいない。シノの身内っぽい人もいない。
………弱ってる?
なんかこの子動き鈍いよ?飛ばないし。
虫は苦手だ。
知らない虫なら、手出しはしない。これがザワッと集団だったりしたら、近づかない。
一匹だと、可愛いかも。
そっと手を出しても、逃げない。指ですくえば、そのまま手の中。
確か、チャクラを食べるんだっけ?手の平にチャクラを集めてみる。医療忍術の感じで。
………これで良いのか?
蟲はじっとしている。
…シノに返そう。
さっさと教室に帰った私は、入学以来おそらく初めてーーー間違いなく初めて、シノに声をかけた。
「あの…」
一応こちらを見るシノ。いや、サングラスでよくわからない。顔はこちらを向いているが。室内なんだから、フードくらい取ったら?
「この子、外にいたんだけど」
手の平を広げて見せる。小さな蟲は、羽を広げたと思ったら、そのままシノの袖口へと飛んでいった。
やっぱりシノの蟲だ。
「………」
無言のシノ。
いや、別に何を言って欲しい訳でもない。
何だ、この空気。
自分の席に戻ろうとした時、シノの袖口から、ブワッと蟲たちが出てきた。
エェー、ナンデッ!?
攻撃ッ!?
蟲たちはブンブンいいながらシノと私の周りを飛んでいる。
私の服の中は、思いっきり鳥肌立ちまくり。
「喜んでいる」
え、そうなの?
「礼を言わなければならない。なぜなら助けられたからだ。ありがとう」
「…どーいたしまして」
あー…、びっくり。
脇汗出たよ。
「そうか、チャクラも貰ったのか」
指先に止まった一匹に、シノはぽつりと呟く。
大半の人間は、シノ達油目一族の蟲を気味悪がる。特に女子は。しかも蟲との対話を重視する一族は無口。シノも対人関係は得意な方ではない。
それを、拾いものをしたと、ごく普通に告げた少女。
「珍しい人間だな…」
サングラスの奥の目が、わずかに細められた。
当の本人は、自席について次の授業の準備をしていた。
***
シノはずっと恩に感じていたので、ヒロインに協力的。
あと何気に蟲を餌付けしちゃった話。