短編

□アカデミーにて2
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あぁ、彼等の気持ちがよくわかる。

心の中で、ちょっと小馬鹿にしていた。マヌケとかって。ごめん。

お腹が空くって最悪だ。



その日、私はお弁当を忘れた。










教室になんていられない(いつもいないが)。よそ様のお弁当の匂いが、すきっ腹にはきつい。
育ち盛りは食べ盛り。鞄の中に弁当箱が見当たらなかった時は、ちょっとショック。財布の中身が雀の涙ほどもないとわかった時は、軽く絶望。

………友達作っておけば良かった。

お弁当分けてくれるなり、お金貸してくれるなり。そんな相手が一人もいない。

人生設計間違えマシタ。



最近定位置となっている校庭の片隅の丸太で、せめてもの日光吸収…身に染みる。



体力温存のため、昼寝ーーー



そんな決心をした私の耳に、楽しげな女子の声。

「なるべく見つかりにくい所じゃないと」
「男子とかうるさいもんね」

女子のがウルサイぞ〜?

「この辺なら良いんじゃない?」
「日当たり良いし、確か座れる丸太も…」

あ、もしかしてーーー



目を開ければ、ピンクと金色。サクラとイノだ。

「………」

手にはそれぞれ水筒と紙袋。

この場合、明らかに邪魔なのは私。

「あ、いや、良いの。邪魔してごめんね。私たち他のところ行くから」
丸太から立とうとする私にサクラが首を横に振る。
「いいじゃない」
特に気にするふうもなく言うイノ。思わず私もサクラも彼女を見る。
「えっと…」
「多めにあるし、あなたもどう?」
戸惑う私に、紙袋の中身を見せる。



大小様々な焼菓子たちーーー



甘い香に、私は負けた。










「おいしー…」

五臓六腑に染み渡る。

親友二人がこっそり開催しようとしていたお茶会。そこに加わる私。食べ過ぎないよう自重する。

「ありがとう。すっごく美味しい」
なんせ空腹。いや、そうでなくても美味しいデス。
「そこまで言われると、ちょっと照れるわね」
その言葉に、手作りだとわかる。貴重だ。しっかり味わおう。
「イノのお菓子もサクラのジャスミン茶も美味しい。ほんとありがとう」
さっきまで最低ラインだった私のテンションは急上昇。我知らず、笑顔になっていた。

あー…この恩はいつか返そう。



何度もお礼を言って、私は早めに教室へ戻った。
親友二人の時間のはずだったのだから、邪魔しちゃ悪い。










「………ねぇ」
「うん、思ったより普通てゆーか話しやすい?」
私の去った後、サクラとイノは頷きあった。
「甘いもの好きなのね」
「すっごい良い笑顔だったものね」
何となく近づきがたい雰囲気の同級生は、話してみれば、ごく普通。むしろ好印象…?

イノは、心配していた。
一人でいる人間は、イジメのターゲットにされやすい。お昼ご飯だって、一人で食べるなんて考えられない。なのに、彼女がそういう標的になった事も、辛そうにしているのも、見た事がない。さっきだって、一人で平気、呑気にひなたぼっこしていた。
「シカマルみたい…」
妙に年寄りじみた幼なじみを思い出した。

サクラは、心配と同時に、少しだけ尊敬していた。
一人でいて平気だなんて、苦い記憶のあるサクラには、信じられない。そのうえ、冷たいわけでもツンツンしているわけでもない。さっきの笑顔は、きちんと人とコミュニケーションが出来る証だ。
「友達になれるかな…」
ぽつりと呟いたサクラに、イノが笑った。
「何言ってんの?もう友達よ」
私のお菓子を食べたんだから、と続けるイノに、サクラも笑った。



***

ヒロインに女友達の出来た日。別名餌付けされた話。
食べ物の恩返しは、中忍試験の時に(遅っ!)。

 

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