短編

□アカデミーにて
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今、目の前にある光景は幻だ。
同じような事が、何度もあってたまるか。



………すっげぇ見られてる。遠慮がない。





アカデミー何年目かのある日。
私はいつも通り一人でお弁当を食べていた。裏庭だったり、校庭の隅だったり。なるべく静かな所。つまり、小学生の会話をしなくて済む所で。

お腹をすかせたサスケやナルトが現れるなんて事は、あれ以来ない。

ない、はずでしょ?





今 目の前にはーーー



チョウジ。

ヨダレを垂らしてこちら、とゆーかお弁当を凝視するチョウジ。食べづらい。微動だに出来ない。確実に獲物を狙っている。

変な汗出てきた。



「………チョウジ、おいで」

サスケとナルトとは全く違う意味で、折れた。
ばびゅんっと勢いよく走り寄ってくる様子も、二人とは違う。
「あげる」
「ぇ…いいの!?」
半ば投げやり。ほぼ手付かずのお弁当を差し出せば、目がキラキラ。眩しー…。
「で、でも、君のお弁当がなくなるよ」
そこはちゃんと気づくのか。
でもね?
目の前に明らかに自分より我慢できない、ともすれば暴れかねない子がいるのよ?
「いいよ。何だか胸がいっぱいだから」
「ありがとう!いただきます!」

すんばらしい笑顔だ。幸せいっぱいな顔だ。



あー…、雲はいいなぁ。










その後、チョウジのために購買で大量のパンを買ってきたシカマルに発見され、同情された。
私がお弁当を差し出さなくとも、ちゃんと彼の友人が救いの手を用意していたではないか。

「チョウジが弁当忘れるとはな」
「間違えて空っぽのお弁当箱持って来ちゃって…」
それはそれは、箱を開けた時のチョウジの失望は、相当のものだっただろう。
「この世の終わりみたいな顔してたぜ、おまえ」

で、目の前のシカマルに気を使って教室から出てうろうろしてたら私に会って、我慢の限界になったわけだな。

「災難だったな」
「いえ…ありがとう」
シカマルがパンをくれた。チョウジはパンを買うお金も持ってなかったのか。
「や、礼を言うのはこっちつーかチョウジだろ」
「ありがと〜」
「どういたしまして」
あ、クリームパンだ。

「意外と普通だね」
唐突なチョウジの言葉に首を傾げる。うちのお弁当が?クリームパンが?
「いっつも一人でいるから、取っ付きにくいのかと思った」
私と話せて良かった、などと言うチョウジ。もしかして餌付けしてしまったのだろうか?
「…騒がしいのが苦手なだけだよ」
「確かにイノ達はウルセーな」
幼なじみにウンザリと言った感じで、眉間にシワを寄せるシカマルは、ごろんと木陰に寝転がった。
「授業前に起こすね」
「あぁ」
二人のやり取りに、いつもこんな風に過ごしているのだとわかる。
チョウジは既にお弁当は食べ終えて、パンを頬張っている。

お昼休みが終わるまで、そのままゆっくり過ごした。



***

やってしまったヒロインの、とある日のお話。

 

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