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三代目火影、猿飛ヒルゼンは隠居した身だ。

悠々と、穏やかに生活している…はずだった。
とある少女と木の葉の情勢のおかげで色々とする事はあるが、それでも今までよりずっと静かに暮らしていく…はずだった。



その三代目の家に、突如現れた暗部二人。
クロシロが来た事よりも、抱えられている人物に度肝をぬかれた。

ヒッと音を立てて息を飲んだが、すぐに開け放していた障子を閉めた。
「結界をお願いします」
「あ、あぁ…」
聞きたい事が山ほどだが、冷静に対処出来るのは積み重ねてきた経験からか。まずは外部に漏れないようにしなければ。
「仮死状態です。すぐ目を覚まします」
「そうか…心臓が止まりそうじゃったわ」
「一週間ほどで戻るだろう」
よくよく見れば、細い針ーーー千本が刺さっている。



サスケがさらわれた事は知っている。綱手からは、ナルト達を奪還任務にあてたと聞いたが………この青年については、何の知らせもない。
これは、どういう事か?
サエの仕業か?



敷かれた布団に横たえられるのは、うちはイタチ。
ピクリとも動かない様は、どう見ても死人である。





木の葉を抜けた犯罪者。

里の犠牲者。

泥を飲ませてしまった子供。



守るべき子供に守られて生き延びている、愚かな自分達。





ヒルゼンが後悔やら懺悔やらを思い浮かべているうちに、シロは千本を抜いていった。

「おい、ジジィ」
「なんじゃ?」
口の悪いクロには、もうすでに慣れた。
「サエの指示だ。表向き、こいつは死んだ。木の葉の医療班が確認済みだ。死体はあんたか五代目が処理した。それで良いな?」
「………そなた達のように、闇に生きるか」
「悪くありませんよ?意外と快適です」
抜き終えた千本を片付けるシロの言葉は、年寄りに気を使ったものか、本心からか。



また、泥を飲ますのかーーー



横たわる青年は、まだまだ親に甘えていてもおかしくない年頃だ。
「…すまぬ」
謝罪など意味がないとわかっている。ただの自己満足の言葉だが、口に出さずにはいられない。

ゆっくりとその瞼が開き、イタチの目がヒルゼンを捕らえた。

「イタチや」
黒い瞳に映るのは、皺枯れた老人ーーーその心身に刻まれてきたものを、イタチは少なからず知っている。
「………何も、あなたが謝る事などありません」





三代目火影。

大戦を生き延びた忍。

里を守ってきた先達。



抱えきれないものを抱えて生きていかざるを得ない、細く小さくなってしまった老爺。





「気づくのが早いですね。でも無理はしないでください。一週間は安静に」
「そうか。ここは?」
「ワシの家じゃよ」
安心しろと、今度こそ守らねばならぬと、ヒルゼンは為すべき事を考える。まずは存在自体を隠さねばならない。ダンゾウや相談役には、黙っておくべきか。あの少女は、権力を警戒している。内部調査は気の重いものだが、そんな事は言っていられない。
いずれにせよ、少女の考えなしには動けない。
「三代目、お手数をおかけします。申し訳ありません」
「いいや、すまんのぅ…そなたとの約束、守り切れずに死ぬところじゃった」

無くしたのは、片腕ーーー

こんなものとは比べようもないものを、失いかけた。
思わず、ビンタを受けた頬をさする。



「しばらくは大人しく身を潜めておけ。後の事は小娘次第だ」
「僕たちはサエさんの所に戻ります」
「うむ、頼むぞ」










身動きのままならない状況というのは、落ち着かない。木の葉を抜けてからーーー否、忍となってから、こんな風になった事はない。
あの後、サスケはどうなったのか?カカシさんに任せたのだから、大きな問題はないはずだが。
記憶にある頃と変わらず、愚かで、まっすぐーーー短冊街でもそうだった。
イタチは我知らずため息を吐く。
「イタチや」
布団から見上げるのは、目を細めてこちらを見遣る三代目。
「今度こそ、守らせてはくれぬか?そなたの事も、サスケも、のぅ?」
それは優しい好々爺と、同時に里を背負う者ーーー火影の顔だ。

 

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