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アスマと紅は、その場の空気の悪さに、どうしたものかと目を見合わせた。
待機所にて、彼らの隣でじっと床を見つめて微動だにしない男ーーーはたけカカシ。
落ち込んでいるのか?
怒っているのか?
目つきは鋭い。
「ねぇ」
本来なら、まわりから気を使われるのは師である自分ではないかと、紅はため息をつく。
「とりあえず、殺気しまってちょうだい」
「…うん、ごめん」
素直に謝られると気持ち悪い。
「カカシ、あの子は大丈夫だろ?」
原因は間違いなく、サエの負傷。
「………ふがいないネ」
木の葉の誰も為しえなかった、大蛇丸の暗殺。
それを、少女がやってのけた。木の葉の忍を頼らずに。師である紅にも、それに並ぶカカシやアスマにも頼らずに。
カカシは、己の無力さに落ち込み、苛立っているのだ。
何故とか、何者とか。
あの子が何も言わないのは、自分がそれに値しないから。頼りないからだ。
だから、一人で命を賭けた。
守られたのは、自分達。
イタチの時だって、助けられたのだ(←その後素でオカシクなってたなんて知らない)。
「サエは、甘えてくれてるわ」
「…甘え?」
「へらへら笑ってたじゃない」
紅にとって、サエが何者かなんてどうでもいい事だ。
最低限、敵でなければいい。大切な教え子。それ以上でもそれ以下でもない。
「私にはそれで十分よ」
笑っているなら良い。
それが男女の差なのか、彼女だからかは、また別の話。
「まぁ…今回みたいなのは、二度とないわ!」
最後だけ、スッと口角を上げ、夕日紅はそれまで抑えていた殺気を放った。
「………ごめん、紅」
「何が?」
うふふと笑う彼女に、男二人は、冷や汗をかいた。
紅もまた、苛立っていた。
何しろ大切な教え子が傷ついたのだ。
それなのに、目の前でウザいくらいに鬱々としていたカカシ。
どうしようかと、カカシはアスマを見るが、目をそらされた。
しばらく機嫌が悪いだろう同僚に、ちょっとビクビクしながら任務をしなければならない。
「…そういえば、キバの奴はどうしてるんだ?」
話題を変えようと試みるアスマ。サエ繋がりでそれとなく。
「修行してるわ。今まで以上に。あんな風に言われたらね」
確かに、面と向かって強くなってと言われたら、堪らない。
「うちのメンバーも、木の葉崩し以来、気合いが入ってるな」
アスマの教え子達もまた、今までの呑気さはどこへやら。めんどくさがったり、食欲優先だったり、恋愛とおしゃれが大事だったりするが。
「そう言えば、サクラも何か勉強始めたみたい…」
ナルトやサスケは、言わずもがな。張り合うように強くなろうとしている男の子達はともかく、サクラまで。
木の葉崩しは、子供達それぞれに覚悟と成長をもたらした。
木の葉崩しと、サエの負傷。
身近な誰かが傷付いた事は、子供達に大きな影響を与えていた。
そして、二度目の怪我もまたーーーそれを知る者は限られているが。
ふと近づいて来た騒がしい気配に、三人は扉に顔を向けた。
バシーンッと、壊れそうな勢いで戸を開けやって来たのは、みたらしアンコ。
「大蛇丸が殺されたって、本当なの!?」
「本当だヨ」
「どうやってッ!?」
「…自来也様と綱手様で」
表向きは、自来也様と綱手様が殺した事になっている。
「そう…」
顔を歪めるアンコ。大蛇丸は、彼女にとって師であり、苦痛を与えた憎むべき相手。
「ーーーなら、後始末ね」
来た時と同様、勢いよくどこかへと走って行った。
複雑な心中は察して余りある。
すぐに顔を前へ上げ、先へと進む姿に、カカシはふっと体の力を抜いた。