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病室から出て、ため息をひとつ。

「三代目…」
弟子の一人に見据えられ、猿飛ヒルゼンは苦い笑いを返した。
「ビンタなんぞ、妻に叱られた時以来じゃ」
情けない。
年端もいかない下忍の少女に、してやられたのだ。
「案ずるな。ワシはまだまだ死ねんらしい」
「当然です」
もう一人、孫弟子の残した青年に、背を押される。

長く火影を勤めて、多くのものを見送ってきた。
死を望むほどの疲れがあった事は事実。愚かになってしまった弟子とともに死ねるなら、と思ったのも事実。

それでもまだ、死ねない。



懺悔も後悔も、生きる事への疲れも、今はない。

生きろと言う少女がいる。










疑ってたんだけどネ…?



小雨の中、はたけカカシは病院を振り返る。

ちらほらと怪我人の姿が見える。木の葉崩しで被害を受けたものの、攻撃の規模に比べれば、怪我人は少ない。死者もそうだ。少なければいいという訳ではないが。

それは、誰のおかげかーーー



不審な点は多い。

知るはずのない事を、山ほど知っている少女。
薬師カブトの事、日向の事、木の葉崩しの事、自来也様やカカシの忍犬の事もーーーいや、その前から。

再不斬と白。

波の国への出立前日、彼女が見せた動揺は、知っていたからだ。
今ならわかる。
鬼人と言われる再不斬だけでなく、その連れ子の白の名前まで、知っていた。帰郷の時、まだ何かを聞こうとしたのは、二人の事か。

カカシが二人を殺さなかったのは、火影様からの知らせがあったから。その火影様に情報をもたらしたのは、錦サエという下忍。家業のおかげで知れたというのを、当時は信じた。



その少女の名を、再び聞いたのは、中忍試験の途中。
人生色々で、アスマと紅とともにいた時、暗部から極秘の呼び出しがかかった。
カブトの捕縛以外に、カカシに与えられた任務があった。

ーーー錦サエの監視。

ごく普通に見える少女を、カカシは見ていた。それは、再不斬と白も同じこと。
もしかしたら、彼女のもたらした情報自体が、何かの罠かも知れない、と。

本選までの一ヶ月、彼女のした事は、修業。真面目に鍛練していた。紅に微妙に察知されて見つかりそうになったが…。
ナルトに声をかけた時は、九尾と関わりがあるのかと疑った。自来也様の名前が出た事に、さらに疑念が募る。彼女の言葉の通り、ナルトが自来也様と会ったのには、わずかに驚いた。
火影様に語った内容には、さらに驚愕。
木の葉を守るために動いていると見れたが、何故それを知っているのかと、不信感は拭えない。

けれどーーー





あんなふうに泣かれたら、ネェ…?

泣きながら、血を吐きながら、暗部の治療をした少女。子供達のところへ行こうとして、カカシの嘘に、ようやっと止まった。

もはや、カカシの中でサエは敵ではない。

それはたぶん、あの時その場にいた者全員の認識ーーー暗部も火影様も、再不斬と白も。



彼女は、間違いなく木の葉を救った。



「…とりあえず、俺の扱いがヒドイの、何とかしてもらわないとネ?」

少女のいる病室を見上げて、カカシは一人呟いた。










綱手様って、どうやって木の葉に帰って来るんだったっけ?

病室のベットでごろごろしながら、サエはアッと声をあげた。

イタチだ!
綱手様の前に、イタチ兄さんがちょっとだけ木の葉に帰って来るじゃないか。
どうする!?



あー…とか、うー…とか。ベットで唸っている珍妙な姿は、再不斬と白にしっかり目撃されていた。

 
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