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『今』の私の、三歳の誕生日。
『今』の母は、たくさん御馳走を作ってくれた。『今』の父は、新しい忍術書をくれた。『今』の兄とは、御馳走を争った。
楽しい誕生日の夜、唐突に思い出したのは、日向ヒナターーーまだ会った事もない少女。
三歳の時に誘拐されて、それがもとで、ヒナタとネジの人生は、大きく変わる。
翌朝、あまり寝れなかった私を、家族ははしゃぎ過ぎたのだと笑った。そうかな、と幼い私は首を傾げてみせた。
アカデミー入学の日、一人きょろきょろと落ち着かないナルトを見た。
保護者席からは、陰険なささやき。顔では笑うナルトの手が、震えていた。
私の入学に嬉しそうな父に、私も無邪気なふりをして笑った。
一人ぼっちになったサスケに、かけるべき言葉など知らない。
淡々と授業を受け、泣きもしない少年から、目をそらした。
知らないふりをして、平穏に笑っていた。
一度離別してしまった、当たり前だと思っていたものーーー父、母、兄。その中で笑っている私。それが、何より大切。
何より幸せ。
やましい気持ちに、ずっと蓋をして生きていた。
本当は、みんなで笑うのが一番だと、わかっている。
ネジやヒナタのお父さんに、偉そうに説教する資格なんて、私にはない。
これが正義だと、理想的だと思えるように、物語に介入するほどの強さはない。私自身の安全のために、居直るほどの逞しさもない。
すべてを知っていて、何もしてこなかった。仕方がないと、これが物語なのだと諦めた。
目の前に痛みを知って、ようやっと、生きている。
目を開ければ、薄暗い室内。わずかな明かりに、白い天井と白い壁。
病院だ。
あぁ、大蛇丸に殴られたっけ。怪我して入院だ。
どうやら今は夜。
とても静かだ。
ゆっくりと身を起こせば、胸やら腹やら、ギシギシ痛みを訴える。メリッとかボキッとか、体内からはしてはいけない音を聞いたような………思い出してため息。
不思議と、恐怖よりも虚脱感がある。
すぐ目の前にあの顔があったのに。真っ白な蛇の顔が。
冷静に考えて、勘弁して欲しい。けれど今はその感覚もない。
窓に引かれたクリーム色のカーテンを開ければ、やはり夜。
夜でも真夜中ではないようで、ぽつぽつと明かりが灯っている。火影塔の明かりも見える。一際明るいのは、酒場と歓楽街のある方向。
それは、サエのよく知る木の葉の街。
街の破壊は、少なからず免れたのだ。
つまり、木の葉崩しは失敗。
しばらく外を見つめた後、ゆっくりと息を吐いて、ベットに戻った。
明日の朝には、また笑う。