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夕日紅は、今までよりも注意深く教え子の様子を見ようと、わずかに身を乗り出した。
もちろん、他の子達の試合も真剣に見ていたが。

教え子はみな可愛い。誰もが忍者としての才を秘めている。
その中で、いまいち理解しきれていないサエという少女。

物静かで落ち着いているというのが、第一印象。ヒナタのように内気なのかと思ったのは最初だけ。
キバの擦り傷を、ため息をつきつつも治療をする。引っ込み思案のヒナタをさりげなく前に連れて来る。シノと会話なくともその意思を汲み取る。かといって出過ぎない。むしろ放置している事も多い。
妙に大人びているというか、達観しているというか…。

時おり、他の子供達を見て微笑む表情は、まるでーーー





「紅、あの子大丈夫か?」
くわえタバコのまま聞いてくるアスマに、ため息が出てしまった。
「大丈夫なはずよ。あの子、ほんとは強いんだから」
大丈夫だと思いたい。なのに本人はグズグズしている。ハヤテとくだらない会話中。
「さっきのネジに対する物言いは見事だったな」
「普段大人しい子って、一度キレると怖いものね…」
思わず遠い目。
キバにため息なんて日常だが、あれがサエの怒りか。
「あの子の問題点は、ちょっと自分を過小評価し過ぎなとこよ」

サバイバル演習で見せた作戦ーーー同期とはいえ即席の班編成で、見事な連携を見せたのは、彼女に寄るもの。

「使えるのも、医療忍術だけじゃないし」
「火遁でも使うのか?」
「大技は無理だけど、風火水土雷すべて使える…器用なのよね〜。何でもそこそここなすタイプかしら。賢いから、戦い慣れてくれれば良いんだけど」
「何でも?」
少しだけ目を見開いて驚くアスマに、一つ頷いて肯定した。

「サエ、頑張りなさい」
捨て犬のような目で見られた気がした。





その会話を、すぐ隣で聞いている上忍師がもう一人ーーーはたけカカシ。

「何でも、ねぇ…」

見えている片目を細めて、ようやっとハヤテの前に出た少女を見遣る。



彼女は、心配していた。

錦サエという少女は、ナルト達を、本気で心配していた。
波の国から帰ってきた時、里門にいた彼女の目は不安に揺れていた。子供達を一人一人見ていって、ゆっくりと笑顔になった瞬間、カカシはあるはずのないものを見たような、不思議な感覚に陥った。
ナルト達に言ったおかえりという言葉。それに戸惑い、けれど嬉しいとまるわかりの笑顔で答えるナルト。サクラはホッと息を吐き、言葉こそなくとも、サスケまでが頬を緩めたのだ。



それは、まるでーーー










不審な点もある。

あの時彼女は、何かを言おうとして飲み込んだ。話をしようとするナルトを制した姿は、忍者としては正しいもの。けれど、何を問おうとしたのか。
まだ、他の何かを心配していたように見えた。
思えば出立前の日、任務の話を聞いて動揺していた。



さっきだって、日向の内情を知りすぎている。



ただの下忍であるはずの少女が、何故?










そしてーーー

つい先ほど、火影様直々にくだされた命令。

『予選終了後、大蛇丸のスパイである薬師カブトの捕獲』

暗部精鋭と、カカシにのみ伝えられたもの。アスマも紅も知らない。
それが、誰からもたらされた情報か知った時、カカシは我が耳を疑った。

 
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