1

□04
1ページ/3ページ


どうして呉服屋の娘なのか。

その日の朝、天の啓示を受けたーーーとまでは言わないが、ひとつの理由がわかった気がした。



「あ…おはよう?お帰り?」
「ただいま。さっき帰ったところだ」
朝起きたら、仕事で留守にしていた父が戻ってきていた。家族揃っての食事は久しぶりだ。

家族というものに頬を緩めたが、唐突に思い出した見捨てたものの事に、顔を伏せた。



サスケーーーイタチの事。

そして、再不斬と白。



ナルト達に話を聞いたのは、一昨日の事。
昨日、もやもやと考えてみても、どうすればいいかなんてわからなかった。いやーーーわからないなんて言い訳だ。

私は、ただ怖い。



不在だった父がいる事に、少しほっとしている。
「どうだった?良い仕入先見つかった?」
「う〜ん、予想より厳しかったぞ。特に波の国がな…話に聞く以上に」
「ガトーカンパニーってデカイ会社があるんじゃなかったっけ?」
母、父、兄と続く会話に、私は箸を止めた。
「うん、それがひどい会社みたいでなーーー」










見上げた火影搭は、いつもより高く見えた。

ナルト達は、昨日早くに出発している。もう再不斬と戦った後で、今日は木登り修業のはず。

「…火影様にお話があります。紅班下忍、サエと言います」



すんなり執務室まで通されたのは、私の出自が明らかで、素行も悪くなかったからか。こんなに簡単に里の最高権力者に会えていいのか?護衛がいるからいいのか!?

下忍になる時の面接以来だ。忍者になる理由を問われて、やさぐれながら親に言われてと答えたっけ…。

しわくちゃの小さなお爺さんの隣に、知っている人がいた。
「サエじゃないか。どうした?」
いきなりイルカ先生がいる事に動揺する。この人火影の秘書みたいな事してたっけ?
「イルカの教え子じゃな」
「はい、そうです。サエ、任務でなにかあったのか?」
うん、もうこの人いてもいいや。聞かれてもいい。

「…私の事ではありません。ナルト達です」

ナルトの名前に、空気が変わった。

「私の父は、商人です」
「あぁ、呉服屋だな。俺も世話になってる」
え?イルカ先生うちのお客さん?ありがたい…じゃなくて。
「今朝、波の国から帰ってきたところですが」
波の国と言えば、二人とも眉やら頬やらがぴくりとする。
「ガトーという男が経済を独占していて、ひどく貧しい国だそうです。刃向かう人には、雇った忍やチンピラを使って乱暴していると聞きました。タズナという人が橋を作ろうとしているのを良く思っていないとも」
「それって…」
イルカ先生が重大性に気づいたようで、明らかに息を飲んだ。わかりやすい反応だが、忍者がそれで良いのか?だから中忍止まり?
「一昨日、ナルトに会った時、Cランクの任務だとはしゃいでいましたが」
「ナルトの奴、任務内容を話したのか…」
「危険です。木の葉に帰すのが無理なら、増援を送ったほうがいい。ガトーに雇われた忍には、霧隠れの…ザブザという人がいるとも聞きました」
「ザブザ?あの鬼人、桃地再不斬か!?」
慌て始めるイルカ先生が、ちょっとウザいなと思ってしまった。
「落ち着け、イルカ」
火影様が窘める。
そうです。大人なんですから、しっかり落ち着いて。

「火影様。私の話は、あくまで父から聞いた噂です。確証がありません」
「いや、良く話してくれた。わしとてナルトやサスケ、サクラが心配じゃよ」
たかだか下忍、子供の話を聞いてくれる三代目に頭が下がる。この人が聞いてくれなかったら、私は何も出来ないのだ。

「もうひとつーーー」

話はこれで終りではない。こちらのほうが、私には重い。

「ガトーは雇った忍を使い捨てて始末しているそうです。汚い事をさせるだけさせて、証拠隠滅。死人にはお金も払わなくて済む」
「非道じゃな」
「それが本当なら…」

助けられるかも、だなんて。

「ナルト達は、わざわざ戦う必要はありません。相手に知らせて、戦いを回避出来るかもしれない」

小娘の思い上がりかも知れないけれど。
再不斬と白は、お金で雇われているのだ。それが支払われないとなれば、ガトーに従う理由はない。
「帰すのも増援も無理なら、せめて情報だけでもー」
「大丈夫じゃよ」

にこりと笑う火影様に、え?っと声が漏れた。

「大丈夫じゃ。よく話してくれた」
「あ…いえ」
「後は任せてくれれば良い。あまり思いつめるでないよ」
ふっと肩から力が抜けた。しっかり考えて来たし、どう話すかも練習したのに。脇汗がぐっしょり。

いっぱいいっぱいだ。



帰りは、イルカ先生が家まで送ってくれた。

「サエ」
気を使われているようだ。常よりも柔らかい声で、先生は膝を折って目線を合わせる。
「よく話してくれた。あいつらなら、大丈夫だ」
ぽんっと頭に置かれた手の平の暖かさに、涙が出そうになったが、堪えた。

 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ