1

□01
1ページ/1ページ


小さな私が、小さく胡座をして、その上に開いて見ているのは忍術書。巻物状のそれは、いたいけな子供が読む物ではない。

けれど、父は喜ぶ。

「サエ」

サエーーーそれが今の私の名前。

「おまえは利口だ。良い忍者になる」

大きな手の平が、まだ小さな頭を撫でてくれる。でもその頭には、すでに大学まで出た記憶があるのだ。



忍者ーーー現代日本では存在しない。
けれど、娘をそんなものに成らせようとする父を止める人間は、ここにはいない。

何故なら、ここは現代でも日本でもない。
火の国、木の葉隠れの里ーーー紛れも無く、忍者のいる世界。



生まれ変わったと思ったら、異世界でした。










あー…

しかも、知っている。



知っている世界、知っている物語。

神様、私何か悪いことしましたか?
通常、前世の記憶はないものでしょう?しかも漫画の世界にいるなんて…妙にリアルな夢はいつ覚めるのかと、生まれ変わってすぐの時は、現実を否定しまくり。
赤ん坊なのは仕方がない。オムツもオッパイも当然だ。羞恥心というより、赤ちゃんなんだから仕方ない。本能のままに吸い付きマス!漏らしマス!!

でも何故この世界!?

よろよろと独り歩き出来る頃に、ようやっと、自分自身と世界を受け入れた。










父はいたって普通の商人で、我が家はそこそこ繁盛している呉服屋だ。

そう、呉服屋ーーー

その名を『錦屋』。

忍者でも何でもない。代々続く呉服屋。忍具や忍服も扱っているが、どうやら父の趣味らしい。
『忍術割引有ります』なんて貼り紙があるのも、父の趣味。何かしら忍術を見せてくれたら、割引。父の気に入りようによって割引率が違う。
自分が忍術を見たいがために…恥ずかしい。



そんな我が家が何故娘を忍に?

そう。

全て父のせいだ。

家業を継ぐために、泣く泣く己の夢を断念した父は、その夢を娘に託した。
この場合の夢=忍者、である。



…なんて事を!



命懸けの人生しゃないか。安全と水があるのは当たり前だと思っている日本人に、なんて人生を歩ませるんだ。

とは言え、そんな父の都合を知ったのは、アカデミー卒業時。
周りに言われるままに、父が喜ぶように。刷り込まれ続けた私は、忍術書を絵本代わりに育った。

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ