短編
□病室にて
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放置されてたナルトとサスケ
***
少女のいなくなった病室は、気まずい空気が流れていた。
しばらく病室の戸を呆然と眺めた後、ちらちらとお互いを伺っているナルトとサスケ。
「サ、サスケ」
先に口を開いたのは、ナルト。
ゆっくりと視線が交わる。
「あの、ありがとってば…」
イタチから守ってくれて。
どんな状況だったかは知らないが、少女の言葉に嘘はないはず。
今の自分は、笑えているだろうか?
ナルトは自分で自分がどんな顔をしているのか、わからなくなった。
何しろサスケの兄はーーーイタチは死んだ。そして、サスケはそれを知らないようだ。まさか口にする勇気はないし、今のサスケに言って良いとは思えない。
何より、サスケは一度、里抜けしようとしたのだ。
サクラちゃんやカカシ先生よりも。
木の葉よりも。
復讐のための力を求めて、自分達を捨てた。
イタチが死んで、サスケが里抜けする理由はなくなったけど、それが単純に喜んでいい事じゃないと、ナルトにだってわかっている。
だから、少女と同じく、ただ一言だけを口にした。
「別に…」
呟く程度の声に、ナルトはハッと俯いていた顔を上げた。
「助けたわけじゃない」
ナルトとは反対側を向いたサスケの表情は、見えない。
「俺はただ、イタチと戦っただけだ」
「で、でも、助かったってば?だからー」
「いい」
「へ?」
「いいんだ」
何がいいのか?
ナルトは首を傾げるが、背を向けるサスケに、今はもう話し掛けないほうがいいのだと思った。
終末の谷で、サスケは見た。
ナルトの中にいるモノを。
どうしようもないドベでウスラトンカチで、里中から嫌われて、へらへら笑っている馬鹿な奴。そんな奴が、気付けば仲間で、強くなっていてーーー腹の中に、化け物がいた。
ただ単に、脳天気に、馬鹿みたいにへらへらしているわけじゃないと、知ったのだ。
思い出したのは、一人の少女。
ごく普通に生きているはずの人間に、闇を見た。あの瞬間の驚きと恐怖。
そしてーーー
誰も彼も、孤独なんて知らずに、大切なものをなくして裏切られた辛さなんて知らずに、幸せに笑って生きている。
もう、そんな風には思わない。
サスケは、知ったのだ。
平穏に笑っているその顔の奥底に、人は何かしら抱えて生きている。
今隣にいるこの馬鹿だってーーー
ごろりと寝返って見れば、まっすぐに自分を見ているナルト。急に目があったからか、少しだけその肩が震えた。
フンッと、鼻で笑った。
「馬鹿か…」
「へ?」
聞き取れなかったナルトは、瞬きするだけ。
自分がナルトに負けず劣らず馬鹿だと気付いたのは、ついさっき。
ありがとうを言われて気付くだなんてーーー
「借りは返す」
素直に礼を言えないサスケ。
「かり?」
ナルトに首を傾げられて、少し脱力してしまう。
わかっていないのか。
「…ウスラトンカチ」
前言撤回。いや、言ってはいないが。間違いなくナルトのほうが馬鹿だ。自分とナルトが一緒だなんて、有り得ない。
ナルトがムッとするのと同時に、ノックの音が響いた。
***
で、サクラがお見舞いに来るんです。