ワンピース
□海軍にて
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怖い。
シュウシュウと蒸気をあげて溶けているガレキ。もとは壁だったものだ。
圧倒的な力は、純粋に怖い。
「おぉお落ち着け!サカズキ、よく見ろ!子供がいるから、子供が!…あっつゥ〜!?」
絶叫するクザンさん。
ウミを指す指先がマグマに触れて、悶えている。
「子供じゃとォ?そんなもんが海軍本部におるかァ!下手な嘘はやめい!いい加減そのサボり癖を何とかせい!!」
クザンさんの言葉など気にもとめずに、次なる拳を振りかざすのは、海軍大将赤犬、サカズキ。
「ちょ、いるから!ガープさんのお孫さんんん〜!?」
あ、死んだ。
生を諦めた訳ではないが、向かってくるマグマを見てそう思った。
「アイスタイム!!」
ドゴォッという盛大な破壊音を、先ほどよりも少し遠くで聞いた。
目の前は、真っ黄色―――
「おー…、あっぶないねぇ」
「…」
「大丈夫?怖かったでしょ〜?」
「……」
「ケガはない〜?びっくりして腰が抜けたかなァ?」
「………」
私を抱えているのは、海軍大将黄猿、ボルサリーノ。
光の速さで助けてくれたのだ。
「怖くて声も出ないのかぁい?」
「いえ…ありがとうございます」
「うん、良いお返事だよォ〜」
抱っこされたまま、なでなでされる。
…ちょっと、キモい。
助けてもらっておいてなんだが、くちゃくちゃのタナカク○エの顔が目の前にあるのは勘弁して欲しい。
目をそらして、いまだやり合っている(サカズキさんからクザンさんが逃げている)ほうを見る。
「いい加減やめなよ〜。女の子に怖がられてるよォ?」
「あぁ゛!?なんじゃあ!」
完全にキレたヤクザがこちらを振り返り、目があった。
「…その娘、何者じゃ?」
「や、だからガープさんのお孫さん」
少しだけ形相が和らいだサカズキさん。瞬きしている。
「いつからおった?」
存在感なくてすいません。
「サカズキがマグマ出す前からいたのよ。俺の隣に。一緒に散歩してたんだって」
ぐったりと横たわっているクザンさんが説明する。
正確には一緒ではなく、歩いていたらいつの間にか背後をついて来られていたのだが。
「やり過ぎだねぇ。サカズキ〜、修繕費用はちゃあんと請求するからねェ〜」
「もとはと言えばクザンのサボりのせいじゃ!元帥にまで説教されても懲りん奴が悪い」
「やり過ぎなのは俺のせいじゃないって!」
「もちろんクザンにも請求するよォ。あとまたセンゴクさんの説教もね〜」
「…ガープさんにも言っておきます」
危うく死にかけたと言えば、何かしらしてくれるはず。
「おー…、そうだね。それが良いよォ〜」
「え、ちょっと待って。それって間違いなくゲンコツが来るんじゃない?」
抱えられたまま、横たわる長身をじっとりと見下げた後、タナカクニ…ではなくボルサリーノさんを見上げる。
「あの…海楼石って、どうしたら手に入りますか?」
「お守りにでもするの〜?」
「はぁ、その…クザンさん除けに」
「加工の時に出るカケラならぁ、もらえるんじゃないかなァ〜?」
「ウミちゃ〜ん?………サカズキのせいで嫌われた!?」
「おどれの自業自得じゃあ!!」
「待って。オニーサン悲しい。ウミちゃ〜ん!あれ、おかしいな。ぼやけてて見えない…」
「クザン、何を泣いちょる。これであの娘に構う事もなくなったじゃろ。仕事じゃ」
さっさと遠ざかってくれるボルサリーノさんのおかげで、二人の会話がどんどん遠くなっていった。