ワンピース
□海軍にて
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中将であるガープさんの部屋には、キッチンもお風呂もある。
使われていなかった小部屋が、私の寝室になった。
初日に親子丼を作ったら、随分と感激された。意図した訳ではないが、『親子』が何かしらの琴線に触れたようだ。
ガープさんは何でも食べてくれるし、何でも美味しいと言ってくれる。
ウミの一日は、朝ご飯と洗濯が済んだら、日中はほぼ自由。
部屋の掃除は清掃員がしてくれるし、ガープさんのお昼ご飯は食堂、もしくは軍艦で。
ふらふらと好きなように過ごして、晩御飯の準備をしたら、夜も自由。
ガープさんは不在になる事も多いので、かなり自由だ。
ふとした時に、ルフィやエース、サボを思う。
待つのは、長い。
いや、待たない―――
………足だ。
ガープさんとの生活に慣れた頃、マリンフォード散策を始めた。
人気の少ない裏庭のような所に出たら、危うく何かを踏みそうになった。
青色のズボンのやたらと長い足。
「…子供?どこから来たのよ?」
ガサリと茂みから起き上がったのは、海軍大将青雉、クザン。
アイマスクを持ち上げて、じっと見下げられた。
背が高いというよりは、長いと言いたい。後退りしてしまう。
「…コンニチハ」
「あぁ、こんにちは。オニーサンはクザン。お嬢ちゃん、お名前は?」
小さく体を折り畳んで目線をあわせてくれるが、近づいた顔にもう一歩下がってしまう。
「ウミ、です。海軍中将モンキー・D・ガープの孫です。少し前からここで暮らしてます」
「ガープさん?そう言えばそんな話をしてたような…」
首を傾げている。
たぶん、話されてても聞いてなかったんだろうな、この人。ガープさんが言わないはずがないから。
「あの」
「ん?」
「通りたいです」
「あらら、ごめんゴメン」
目の前を塞いでいた長身を、ヨッと掛け声付きでよけてくれた。
庭木で死角になっていて、周囲からは見えにくい。
静かに風がそよいでいて、サボって昼寝には調度良さそう…間違いなくサボり中なんだろう。
「…何ですか?」
「ん?いや、何してんのかと思ってね」
「散歩と…探検です」
うろうろキョロキョロする私の後をついて来るクザンさん。もしかして不審に思われただろうか?
「探検、良いね!危ないところ多いから一緒に行こうか?」
え、やだ。
「…うん。そんなに嫌そうな顔しないでくれる?オニーサン不審者じゃないから」
不審者っぽい。
「ガープさんと同じ海軍だよ。俺は大将って言って―」
「知ってます。ガープさんの上司ですよね」
「あぁ、うん…」
何となく、こちらを見下ろす視線が嫌だ。
―――私の異質に気づかれた?
大将相手に怪しまれない演技力も、度胸もない。内心ビクビクしてしまう。
「あんまりガープさんに似てないね。お母さん、美人?」
言われた言葉が不愉快で、眉間にシワを寄せた。
「…帰ります」
「え?」
ついさっき除けてもらって通った所を、スタスタと引き返した。
似てなくて当たり前だ。
私は、異邦人だから。