小説2

□卒業
1ページ/4ページ





黒く染まった空を見上げれば、冷たい雨が頬に落ちてきた。
それから少しずつ雨脚は早くなって、アスファルトをますます黒く塗りつぶしていった。

三月九日。
まだ少し肌寒く感じられるこの時期に、来神高校でも卒業式が行われる。
今までの生活から、勉強という呪縛から、面倒な友達との馴れ合いから、楽しかった暮らしから、卒業する為の儀式。
その静粛な雰囲気は何故か人々に過去の思い出を振り返らせる。

「いつもより冷たい雨だな」

傘も差さずに空を見上げる少年――平和島静雄は高校二年生である。
なので今日行われる式にはなんら関係はない。
自分が卒業する訳でもなく、親しい先輩が居る訳でもない。
ただ、卒業式には一年も二年も出席しないといけないので学校に向かっている、その程度の関係だ。
それでも、笑っているような泣いているような、感慨深い表情で語り合いながら登校している、おそらく三年生であろう人達を見るとなんだか心が痛んだ。
卒業なんて所詮他人事なのに。
それなのに、胸が締め付けられるのだった。

制服を冷たく濡らす雨が、みんなの悲しみを代弁しているようにも見えた。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ