小説

□義手少女の一歩
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義手少女×平凡少女


私にその辛さは分からないです。
分かるよなんてこと軽々しく言える筈がないです。
……だったら、あなたの辛さを私が消してあげる。
自分はみんなと同じなんだって思わせてあげる。
そしていつか…

――あなたと手を繋ぎたい。



――――――




私に取り得なんてない。
ある筈がない。


容姿は普通。
スタイルも普通。
成績は中の上。
運動神経は良いのかも分からないない。
性格は…、すっかりひん曲がってしまった。

私がどんな人間であっても、私は平凡になれやしない。
だって、みんなにあるものが私には無いんだから。





「藤崎の手ってまじキモいよねー。あいつにプリント拾われそうになって、マジ吐き気したし」
「生まれつきだか何だかしらないけどさぁ。先公にひいきされてうらやましーなぁ、とか言ってー」

教室の端で、隠そうともせずに大きな声で言われる悪口。
まぁ…もう慣れたしね。
大丈夫、なんとも思わない。
だって私だって、自分がおかしいことくらい気づいている。


――私には右手が無いんだから。


生まれてきたときから私には、右肘から先がなかった。
今はそこには義手がついている。
だから大抵の事はできる。
ただ――人に触れることだけはは許してもらえない。



『ねぇ、お母さん。私はみんなとは違うの?』
『…何言ってるの。愛梨ちゃんはみんなと同じように遊んでるじゃない?』

お母さんの苦笑いに違和感を感じた4才の頃。
そのときは友達も普通に遊んでくれた。

『……愛梨ちゃん本当にごめんね…。』
『こんなの気にしてないよ!!大丈夫!』

お母さんの泣きそうな姿を見て、無理に笑った5才の頃。
何のことか言うまでもなく大丈夫と主張した私は、既に大丈夫じゃなかったんだと思う。



中学に入って、完全に拒否されるようになった。
始めは、中には優しくしてくれる人も居た。
でも私はいつかその人だって嫌になると思ったから。
…だから、自分の方から突き放した。

テレビでよく、障害があっても明るく振る舞っている人の特集とかやってるけど、みんながみんなそうやって明るくできる訳じゃない。
当たり前ではあるけど、腕が無いっていう事はそんな軽いものじゃない。

したいことができない。
できたとしてもすることは許されない。
そんなただの<不運>で生まれてきてしまったこの体を持ってして、明るく振る舞うなんて…。

私には到底できなかった。


みんなの中心になりたいわけじゃない。
みんなにもてはやされたいわけじゃない。
みんなより目立ちたいわけじゃない。

ただ、こんな姿でもみんなと同じことがしたいだけ。
こんな私でも心の底から認めてくれる人がほしいだけ。

誰かと寄り添って生きていく事を当たり前と思っているみんなが、羨ましいだけ。


それなのに、みんなと一緒に居たいと思うのを許さない私がいた。





「ねぇねぇ、愛梨ちゃん!」
「……?」

堂々と話しかけてきたことに驚き、反応が遅れる。

「神沢 千尋だよ」

多分、私が知らないだろうと思って自己紹介してくれたんだと思う。
でも私は知ってた。
そりゃいつもみんなの事を「いいなぁ」って思いながら見てたんだから。

かみざわ ちひろ。
クラスのリーダーみたいな子で、いつも面白いことを言ってみんなを楽しませてた。
あの子が一声かけるだけで、みんなが賛成する。
そんな姿を見て、私とこの子が関わることは一生ないんだろうなって思ってた。
なのに…なんで?

「…何?」
「気にしなくていいと思うよ」

何のことだろうと思った。
でも多分さっきの悪口のことだと思う。

「…そんなこと言われなくても別に気にしてない」
「そっか!なら良かった!!」

屈託のない笑顔。
意味が分からない。
なんでそうやって笑えるの?
私はみんなとは違うのに。
何を考えてるの?

「あの…さ、言いにくいんだけど…。」
「さっきからなんなの」
「あっ、ごめんね!えっと…と、友達になってくれないかなぁ…?」
「…は」

沈黙。そして混乱。
何この人。

「何言って…」
「私愛梨ちゃんと友達になりたい!!」

わ、そんな大きい声で言ったら教室中に聞こえちゃうじゃない…。
この人にだって悪口のとばっちりが来るかもしれない…。

…とにかくさっさと話を済ませよう…。

「かっ、勝手にすれば?」
「!!…ありがとう、愛梨ちゃん!」

神沢千尋は本当に嬉しそうに笑った。
そして私の両手を取って、上下に大きく振る。
全身で気持ちを表現しているみたいでなんだか面白かった。

「私、嬉しいよ!」
「触るの…ヤじゃないの?」
「何が?」
「いや、だから、私の右手…」
「あぁ…。なんで?機械でも手は手でしょ?こんなの着けてるなんて超格好いいじゃん」
「………」


顔が熱い。
心臓がどくどくとうるさくて仕方ない。
頭も少しぼーっとして、なんだか風邪をひいたときに似たかんじがする。
一番おかしいのは…前で笑顔を晒しているこいつが輝いて見えるんだ。


こういう気持ちってなんて言うんだろ?
喜び、嬉しい、感動?…なんか違う。

えっと、えっと…。



「あ」







――…ときめき。





<あとがき>

中途半端なところで終えてしまってごめんなさい。
でも、これ以上書いちゃ駄目な気がしたんです。

お正月の特番で観て、なんだか胸が痛かった。
自分がもしこうだったらこんなに明るくできたんだろうか。こんなに楽しんで生きていけただろうか。
そんなことばかり考えてしまいました。
私の周りに義手をつけた方が居たとしてもきっと私は何もできない。
その気持ちを完全に理解することなんて到底できない。

だから、素敵な人に出会えることを信じて、
こんなものを書いてしまいました。


みんなが幸せでありますように。

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