小説

□D
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5,馬鹿な事を言ったから



―――





「シズちゃん、プラネタリウムに行かない?」

こいつの誘いはいつも唐突すぎる。


「いいけど…急だな」
「東京の空は暗いからねぇ。久しぶりに星が見たくなっちゃった」
「確かに久しく見てねぇな」

池袋や新宿の人工的な灯りも綺麗なのだが、やっぱり自然は美しい。
プラネタリウムなんて中学生のとき幽と一緒に行った以来だろうか。懐かしい。
…ちょっと楽しみ。

「じゃあお昼ご飯食べたら行こっか」
「あぁ、分かった」

心なしか、臨也も楽しそうだった。





♀♂





「おぉ、でかい…」


入り口の外から建物全体を見上げる。
晴れた空、心地よい風、全てが外出日和である。

「この辺で一番大きいとこだよ。機械も最新型なんだって。結構デートスポットとして人気みたいだよ」
「へぇ…調べてくれたんだな」

少し嬉しく思う。
自然と口元がほころぶのを感じる。

「あぁもう可愛いなぁ。シズちゃんの為ならそれくらいするに決まってるじゃない…襲っていい?」
「っ…!!だ、駄目に決まってんだろ!公共の場で何言ってんだ!!」
「あぁ、プラネタリウム見るときは暗いからそのときに…」
「何企んでるんだ、手前ぇ!//」

ふっと臨也が笑う。
今日はなんだかよく笑うなぁ。
なんでだ?
…あぁ……そうか。

「一緒に出掛けるの久しぶりだな」
「ふふ、そうだね。勝手に頬が緩むよ」
「臨也はいつもニヤニヤしてるだろ」
「失礼な!いつもじゃないよ、シズちゃんの前でだけだ!!」
「ツッコミどころはそこなのか…?」

なんて呆れて言うものの、なんだか緊張する。

今日は臨也も俺も、いつもと違う服を着ている。
俺は服のこととかよく分からないから、昔臨也に選んでもらったもの(珍しく普通にかっこいい服だ)を着た。
臨也もいつもの真っ黒い服でなく、(黒が基調にはなっているが)多少有彩色も混ざっている。
やっぱりかっこいい奴は何着ても似合うんだと実感させられる。
なんでこいつ変態なくせにこんなにかっこいいんだろう…。
臨也は俺のことを可愛い可愛いと言うが、俺なんか幽と違ってスタイルも顔も良いとは思えない。

…なんかムカつく。

「なに?いつもと違う服装に見とれちゃった?」
「ばっ、ち、違ぇよ!!!//」
「大丈夫、シズちゃんも似合う。…から俺も緊張してる」
「……っ//」

くそ、なんだこれ。
久しぶりだからって緊張しすぎだろ。

ギクシャクとしながら歩き進め、受付でチケットを渡す。
そして今はまだ明るいドーム状の建物へと歩を進める。
そこには既に、結構な数の人達が座っていた。
臨也と隣り合わせに座ると女の人の声でアナウンスがかかった。

「まもなく、14時からのプラネタリウムを開演致します。ご観覧の方はお席について下さいませ。」


心が躍る。
早く始まらないかなぁ。

「なぁ、臨也って星座のこととかよく知ってるのか?」
「んー、多少分かる程度かな。シズちゃんは?」
「名前は聞いたら分かる程度だな。織り姫と彦星の話しか知らねえや。…あ、あとオリオン座の話も覚えてる。さそりに噛まれて死んじゃって、星になった…だっけ?」
「そうだよ。ちなみに、オリオンがさそりに脅えるから、冬のオリオン座と夏のさそり座は絶対同時に見ることはできないんだって。で、さそりの監視役として射手座がいるんだ」
「へぇ、初耳………あ。」

辺りが急に暗くなる。とうとう始まるようだ。

女性の声でアナウンスがかかり、早速星が輝き始めた。
まだ何か喋っているようだが、俺はそんなの聞いていなかった。


「…なんだこれ…」


思わず言葉がこぼれた。

こんなに空はきれいだっただろうか…?
晴れた空は気分がすっきりするから好きだ。
雨が降る空は寂しそうだけど、静かで好きだ。
陽が沈む空は橙色が広がって芸術的で好きだ。

だけど……夜空は。

「こんなにきれいだったっけか……」
「正直俺もびっくりした…」

堂々と輝く大きな星、ささやかに瞬く小さな星。
すべてが宇宙上のどこかでちゃんと存在している事を教えられる。

「見に来れて良かったよ」
「…あぁ。臨也と一緒に見れて本当に良かった。」
「!!」

自然の力はすごい。
こんなに俺の心を正直にさせる。
この空間がすごく気持ち良くて、体も心も綺麗になったみたいに感じた。

「…暗闇だからって誘ってるの?」
「ばっ、違ぇよ!」
「襲っていい?」
「だから、いい訳ないだろうがっ!!//」

あぁもう…星の説明がもう始まってるのに…。
聞きたいのに…。

「彦星と織り姫みたいにさ、仕事しないなら離れ離れにするぞって言われるなら俺は死ぬ気で働くよ。それでシズちゃんと一緒に居られるのなら」
「…は、恥ずかしいこと言うなよな…」
「だって本当だもん。シズちゃんのためなら…何でもする」
「……っ//」

きれいに輝く星たちのせいで頭おかしいんじゃねぇか…?
…俺もお前も。


「キスしていい?」
「……後で覚えてろよ」
「ふふっ、いいんだね」



暗闇の中で見た表情はとても魅惑的だった。






俺の暴力は愛情の塊なのです。
正直に言うなんて…恥ずかしいだろ。
理解してくれねぇか?
本当は……まぁ、その…

好き…、なのです。




彼の暴力は努力の結果なのです。
『愛したい』『でも愛せない』という想いを乗り越えての行動なのです。
理解してもらえるかなぁ?
……俺の心はもう、

そんな彼に侵されているのです。




2人は愛しあって、
相手に伝えて、
それはちゃんと届いて、
そうした結果


殴ってしまうのです。




「どこ触ってんだよ!!?//」

ドカッ

「痛っ!」








knock out! 
  
だいすき。さんのお題を拝借。ありがとうございました!!

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