小説

□告白〜静雄side〜
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――俺はもう我慢が出来なかった。


好きな人が居る。
そいつは俺の事が嫌いだ。
だから、俺も嫌いなフリをしてきた。
それでも俺は幸せだった。

だが、それも今日で終わり。
もう俺は……我慢出来ない。
好きなもんは好きなのだから仕方ないじゃないか、と開き直ってみることにした。
所謂『告白』を今日すると決意した。
いつあいつが現れるか分からない街並みは緊張の塊みたいに見えた。

「どうしたんだ?静雄。今日なんか変だぞ?」
「そうっスか?別に…」


緊張の塊の中から奴が出て来るのは、そう遅くはなかった。

「!…臨也っ!!」
「おい静雄!」

トムさんの静止の声も聞かず、ひたすら真っ黒な人間に向かって走る。

「…やぁ、シズちゃん」

臨也は軽く手をあげ、綺麗に笑った。

「臨也、話があるんだ」
「…話?」

一世一代の一言を、
溢れて止まない一言を、
未来を変える一言を…!!


「………臨也、俺はお前が好きだ。」
「…は?」

何を言っているか分からないという表情をした。
当たり前、だよな。

今までは嫌っているように演じてきた。
何度も感じた『好き』を封じ込めてきた。
嫌われて、嫌って、傷つけられて、逃げられて、喧嘩して、殺し合って、それで本当に嫌いになれれば楽だった。
でもいつになっても、目が合うと胸が高鳴るのは治らなかった。

やっぱり好きなんだと何度も実感させられた。
少しずつでいいから、この気持ちが伝わってほしいとも思った。
……でも恐かった。

拒絶されるのが、距離を置かれるのが、『嫌い』とはっきり言われるのが…
恐かったから。
だから何も言えなかった。
だけどやっぱり、この気持ちを知ってほしいんだ…!

臨也が口を開いた。

「何言ってるの?」

臨也が口にした言葉は受け入れる言葉でも、拒絶する言葉でもなかった。
それは単純な疑問。

「何って……」
「シズちゃん。それは、恋って言わないんだよ?本物を知らないから勘違いしてるだけだ。」

「……」


頭の中で何かが切れる音がした。


勘違い?

朝も昼も夜も自然とお前の顔と声が浮かんで、何度も『会いたい』と呟いた。
これが恋じゃないって言うなら何なんだよ。

「俺はなぁ!手前ぇみたいに要領よく生きていけねぇんだよ!!いつの間にかお前のことばっか考えてて……どうすればいいか分かる知識も無ぇんだよ!!」

自然と俺の声は大きくなっていた。
臨也の質問に噛み合っていないかもしれない。
それでも俺には、俺の気持ちをぶちまけるくらいしかできないんだ。

……そうだ。
全てのことを考えられるような要領のいい奴ならば、臨也のことも、それ以外のことも五分五分に考えられた。
でも……俺には要領よくなんか無理だった。
馬鹿だし。
もう抑えることもできない。

「好きで好きで大好きで、ムカつくけどやっぱ好きで、袋でお前を見かける度すっげー嬉しくて、嫌ってたお前の笑い方も綺麗に見えて、声とか聞いたらすぐ飛んでいきたくなる………こういうのを恋っていうんだろ!?どうすれば最善かなんて分かんねぇ。…でもな!もう、色々考えるのもめんどくせぇんだよ!!俺は俺のやりたいようにさせてもらう!!」

一気に喋ったせいか息が荒い。顔が熱い。鼓動の音が頭まで響く。地面がグラグラと揺れるように感じる。

「臨也が、好きなんだ……!!」

いつの間にか下しか見れなくなっていて、喋っていた時の勢いは何処に行ったんだと自嘲する。
『好きにさせてもらう』なんて言ったけど、やってることがなんだか違うじゃないか。
そうは思っていても重い頭は動かない。
よって奴の表情も見る事が出来ない。

なんだコレ。
言うこと言って、スッキリしてる筈なのに…なんだコレ。
顔を上げるのが恐い。
今臨也は何を考えてるんだ?
なんで何も言わないんだ?
俺もしかしてすげぇ変なこと言っちまったんじゃ……



……あれ?



…逃げたい。
ここから今すぐ居なくなりたい。
これ、もし拒絶されたらどうなるんだ?
「気持ち悪い」って言われたらどうするんだ?
もう喧嘩すら出来なくなるんじゃないか?
もう袋にも来なくなるんじゃないか?
もう二度と会えないんじゃないか?
もう二度と話せないんじゃないか?

嫌。嫌だ。そんなの嫌だ。絶対に嫌!!!

俺が勝手に好きになって、
勝手に突っ走った所為で


また大切な人に嫌われる…?




それはそれは長い沈黙だった。

もう駄目だ。
この空間に耐えられない。
そうだ、逃げよう。
そして今度会ったら何も無かったように話そう。
『少し疲れていたんだ』と話せば納得してくれるかもしれない。
いつも通りの関係に戻りたい。
多くを望むべきじゃなかった。
今のままでも充分だったのに…
壊れてほしくないと心から思える程大事なモノだったのに…
それさえも失うのなら、前進なんていらない!
ずっとこのままの関係で居たい!
もう、戻れないなんて嫌なんだ…!!!

一言『ごめん』と言って、走り去る。
完璧だ。
何度も何時も頭の中で練習してから口を開く。


「臨也…」

恐る恐る顔をあげる。

「ごめ…「ありがとう」


…へ?

臨也の声が重なった。

『ありがとう』って…何が?
なんでそんなに柔らかく笑うんだ?
なんで顔が赤いんだ?
なんで泣きそうな表情してんだ?
やめろよ。
妙な期待はしないって決めてたんだ。
どうせお前はずっと俺の事嫌いだろ?
だからずっと俺も嫌ってるフリをして…
今更俺は幸せになれる訳ねぇんだから…
もう嫌われたくないんだ。
あぁ……なんで告白なんてしちまったんだ。

辛い現実を見るくらいなら、進まなくても良かったのに。

――臨也が再び口を開いた。



「俺も好きだよ、シズちゃん」



なんで……
そんなに幸せそうなんだよ…?

「っく、ぅ…いざ、や……!!」
「ありがとう。好きって言ってくれて。」

安堵からきた涙が自然とぼろぼろ零れていく。
そんな俺を見た臨也が、優しく微笑んでから抱きしめた。

「まさか…シズちゃんがそんな事思ってくれてたなんて驚いた」
「臨也…っ!いざ、やぁ…!!本当に俺のこと…っ!!」
「本当だよ。俺もシズちゃんの事が大好きだ。」

優しく背中をさすってくれる臨也。
こんなに近くに居ることさえ有り得ないのに…
好きだなんて……

「シズちゃん…俺のこと大嫌いなんだと思ってた。いっつも喧嘩しかしてなかったし。…だから、俺も嫌ってるフリしてた。」

………あぁ、俺達は同じだったんだ。


好きなのに、嫌ってるフリなんかして…
すれ違って…

なんて馬鹿馬鹿しい日々を送ってきていたんだろう…。

今そばにいれることが嬉しい…


「…俺もそう。嫌ってるフリしてきた。でも…お前も俺のこと…好きなんだよな?」
「…うん。大好きだよ。」
「そうか…臨也、」



「ありがとう」



それはなんの飾りもない言葉だった。

本当の気持ち。
信じてくれて、優しく抱きしめてくれて、愛させてくれて、愛してくれて、
ありがとう。


「…んだよ、この天使の微笑みは…//」
「は?」
「いや、なんでもないよ。しかしなんでシズちゃんが言っちゃうんだよ…」
「……?」




「俺が告白しようとしてたのに」


耳元で囁かれた声は頭の中で幾度となく響く。
顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。

「〜っ……ば、馬鹿が!!」
「Σ痛っ!!」

恋が成就しても、喧嘩癖が直ることはなかった。






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