小説

□secret kiss
1ページ/2ページ



卑屈な音、高い嬌声、汗の匂い、ベッドの軋む音。
それらは真っ黒な広い部屋の中で作り出されたものだった。


「ぁっ……いざ、やっ、やめ…もうっ、だめっ…!!//」
「そんな甘い声で啼いといてっ、はぁ…何言ってん、の…」

――思えば、ここ最近俺は苛々していたのかもしれない。
只でさえツンデレなシズちゃんが、最近はツンツンツンツンツンデレに悪化していたので、ちょっと苛めたくなった。
それだけの筈だったんだけど…

「いやっ、痛い…っ!もっとやさ、しく…!!」
「嫌だよ。優しくなんてしてあげない…!」
「あぁっ!そこだめっ…ぁ、揺らすなっ…て言って…!!//」

――こんな可愛い事言われたらなんかもう、理性なんてぶっ飛んじゃって…いつの間にかこんな事に。

あぁもう可愛すぎる…
シズちゃんがそんなんだから俺はこんなに独占欲が強くなっちゃうんだ…。

「シズちゃんが悪いんだよ?たまには素直になりなよ…」
「何っ?何が…っ?」
「今教えてあげ…るッ!!」
「や、はぅ、…あぁぁぁぁっっ!!!」

真夜中のマンション内に大きな嬌声が響き…
彼は意識を手放した。













真っ白な肌、柔らかい頬、半開きの唇から漏れる吐息。
その全てが、静雄が感じている『幸福感』を表しているようだった。

臨也の手を弱い力で軽く握る静雄に愛しさを感じながら彼は呟いた。

「寝てる時はこんなに大人しくて、可愛いのになぁ……いや、ツンツン意地張ってるシズちゃんも可愛いんだけど。ていうかぶっちゃけヤってるときのシズちゃんが一番可愛かったりするんだけど。……いや…全部可愛いな。」

独り言で惚気ながらも、優しい瞳で静雄を見つめる。

「そういや、明日は朝から取り立ての仕事だっけ………そだ、良い事思い付いた♪」

ちゅっ……

白く美しい彼の首筋に吸いつく。

「ふふっ…みんなに見せびらかしちゃえばいいよ」

それは独占欲の表れ。
静雄のその赤くなった首筋は、誰が見てもキスマークにしか見えない。
それを見ると臨也は、満足そうに眠りについた。
だが、付けられた本人は何も気づかず、寝息をたてていた。



「ーん、いざ…ぁ」





♀♂






「…遅い。」
「共感です」

俺とヴァローナは事務所の前で5分程立ち尽くしている。

今日は、静雄とヴァローナと俺の3人で取り立てに行く予定だ。
だが、いつも10分前にはきちんと着いている静雄が来ない。
5分の遅刻ぐらいで怒ったりするような俺達じゃあないが、あいつにしては珍しい時間帯だ。
もしかすると誰かに絡まれてるのでは、と心配してしまうのが心情だ。

「探しに行くか…?」
「肯定です。身に危険が及んでいる状況と判断すれば参戦します。」
「おいおい、あんまおっかねぇ事考えんじゃねぇよ…」

ヴァローナも俺と同じ事を考えていたようで、そんな会話をしていると、金髪が猛スピードで走って来るのが見えた。

「トムさーん!!」
近くに来た静雄は膝に手をつき、ぜぇはぁと息を荒げている。
「おっ、遅れて…すいませ…」
「まぁとりあえず落ち着けや。言う程時間も遅れてないし。」

静雄は、相当慌てて家を出て来たのか、シャツは第2ボタンまで開けたまま、ベストのボタンは全開という状態だった。
蝶ネクタイもぶら下がったままだ。
あれ…髪濡れてる?
汗…にしちゃぁ濡れすぎか。

「お前もしかして風呂入ってきた?」
「え、あ、はい…すいません。」
「いや別に謝らなくていいんだけどよ。つーかとりあえずボタン閉めろ?……って、」

顔を上げた静雄に唖然とした。
いや、顔ってか…


首?


「………静雄」
「なんすか?」
「…ちなみに、昨日は…誰と居た?」
「え、くそノミ蟲と…」

やっぱりかあの情報屋め!!!!!

おそらくただの『これは俺の所有物だから手出すなよ?』みたいな事なんだろう。
朝風呂入って遅刻って…
真夜中まで何してたんだよ、お前らは…

「どうしたんすか?トムさん。ノミ蟲が何か…?」
「……何でもない。」

別に2人が何してたっていいさ。口出ししない。
だが…

俺は静雄の姿をもう一度見つめる。

「?」

白い肌を一点だけ赤く染められた首筋。
そこを滴っていく汗。

……綺麗だ、と素直に思える。

「じゃ、行くべ」
「うっす」
はぁー……
今日は欲情を押さえつけて、しかも気を遣って過ごさないといけねぇのかよ…


くそ、あの情報屋……


そうして、俺の神経質な1日が始まった。









次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ