小説

□ずっと、このままで。
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ある日、俺の家に来た少年はこう言った。

「僕の兄貴のバースデーパーティーを手伝っていただけませんか。」

その少年はさすがテレビの中から出て来ただけあって、
とても綺麗で、
でもやっぱあいつにはかなわないなぁ。

…なんてくだらない事を頭の中で考えながら、俺は言う。

「……はぁ、仕方ないなぁ。」

――とびっきりの黒い笑顔で。

「……じゃ、2枚でいいよ☆」


♀♂


ピーンポーン
俺の家内にチャイムが鳴り響いた。

「…?」

現在午後9時。
セールスマンが来るには遅い時間帯だ、と思いつつ玄関へ向かう。

「シーズちゃぁん!開けてー!!」
「Σ!?…臨也!!?」
いきなりの予想外の声に驚く。

「今日用事があるのは俺じゃ無いのー!!喧嘩もしないからぁ!!開けてー!!」
「…………」
別にそれを心配してる訳じゃないんだが、と心のなかで呟きながら、近所迷惑なので鍵を開けて外を見る。

「兄貴、久しぶり」
「えっ!?幽!?」
「俺も居るよー」

そこに居たのは、久しぶりに見る我が弟の姿。
…と、全身黒尽くめのムカつく恋人の姿。

「…なんだよ、この2ショット」
「俺は只の依頼だよー」
「依頼…?」
臨也の奇妙な言葉を聞き返す。
そして、それを理解しているかのように幽が口を開いた。

「僕が…臨也さんに依頼したんだ」
「…何を?」
「兄貴が今日…特別な1日を過ごせるように。」
「今日?特別?」
ますます頭の中がこんがらがる。
何が特別なんだ……?

「うわ、本当に覚えてないんだー…」
「なっ、なんだよ!!」
付き合ってるとは言え、臨也のこの表情は嫌いだ。
馬鹿にするような、俺を下に見るような…
遠慮無しに文句を言うと「仕方ないなぁ」と言って臨也は口を開いた。

「1月28日だよ」
「そう…だな。」
「…じゃ、シズちゃんの誕生日っていつだったっけ??」
「…確か、1月28……あっっ!!!」

そうか!そう言われればそうだ。

――…今日は俺の誕生日…

「『確か』って何。」
「いや…あんま関心無くてつい…」
「だからさ、今年の誕生日くらい一緒に居たいなって思って。去年は仕事で無理だったでしょ?」
「あぁ…そうだな。ありがと、幽」
俺はそう言って出来るだけ優しく幽の頭の上に手を置く。
幽は少しだけ安心したようで(表情は変わらないが)、なんだか俺も安心した。

「入れよ」
「うん」
「お邪魔しまーす」

いきなりの誕生日パーティーに浮かれてたのと、
臨也の演技の上手さによって、

この時の俺は、臨也の様子がおかしい事には全く気づいていなかった。


♀♂


………苛つく苛つく苛つく…

今日はシズちゃんの誕生日な訳で、
それを弟に依頼された訳で、
シズちゃんが祝われて、
シズちゃんがパーティーの中心に居て、
それは当たり前で、
シズちゃんが楽しければそれでいいんだろうけど……

最っっっ高につまらない。


「兄貴の為にプリン買ってきた。ここの美味しいって評判なんだって。」
「そうか!ありがとな」
「…………うん。」

つまらない。
なんだよ。彼氏の目の前で弟とイチャつきやがって。
ていうかそのプリン、何自分の手柄にしようとしてんだ。
プリン買えって言ったのも、この店が評判って情報をあげたのも、全部俺なのに。
ていうか何照れてんだよ。
何が「僕の兄貴のバースデーパーティーを」…だよ。
完全にシズちゃんに近づくための口実じゃないか。

まったく…滑稽で、見苦しいよ。
一言で言うならば…
すごく『うざい』。

だけど…
こんなに嬉しそうなシズちゃんの顔久々だな…
こんな表情忘れかけてた。
こんな表情が見れてすごく嬉しい筈なのに…
その笑顔を引き出すのが自分じゃないと思うと……

――すごく寂しい。

俺も単純になったもんだなぁ…
弟に嫉妬するなん
「Σ…てっっ!!!??」

「何ボーッとしてんだ。臨也もプリン喰うだろ?」
「え、あ、……ん。」
気づくとシズちゃんが俺の口にスプーンを突っ込んでいた。

口に広がる甘み。
こんなに甘いのが好きなのかぁ…

あ、イイ事思いついた♪

「ねぇ、食べさせてくれたお礼に俺も食べさせてあげるよ。」
「え…いや、いい…//」
「そんな事言わないで。今日の主役はシズちゃんだよ?」
「…………」

半ば強引にシズちゃんの口を開ける。
そして、徐にスプーンを俺の口に入れると、とても不思議そうにこちらを見てきた。


ちゅっ


「んむッ!!?//」
「ちょ、臨也さん!?」

静止の声なんて聞こえない。
やめる気なんて全く無い。
いいじゃん。
たまにはイチャイチャさせてよ。

「ふぅ、んぁ…//」
ぐちゅぐちゅという卑屈な音と、くぐもった声だけが部屋に響く。
口の中にはプリンの甘さと、慣れない動きで上下左右するシズちゃんの舌。

可愛いなぁ…

嫌がるくせに、本当は嬉しくて、
下手なくせに、頑張ってる……

薄く目を開くとギュッと目を瞑ったシズちゃんの顔が見えた。
風呂で逆上せたときみたいに真っ赤で…
俺のキスに応えるのに必死で…

ホント、可愛い。

ほら見てよ。幽くんの顔。
こっちも逆上せてる。
こういうとこ似てんのかなー

「んみゅ、ぅ…いざ、ぁ…//」
シズちゃんの口の端から粉々になったプリンが垂れる。
そろそろ辛いかな、と考え口を離す。
唇通しが白い糸で繋がる。
俺は、シズちゃんの顔を正面で見てからこう言った。

「甘いね♪」
「う…あ、ぁ…そ、だな…//」


――…幽くんの顔を見ながら。


そこから俺達の闘いが始まった。
「兄貴、プリンついてる。」
「え?」

はむっ

効果音をつけるならこんなかんじだろうか。
幽くんはシズちゃんの唇の端をくわえるようにキスした。

…兄弟でコレは無いよね。
しかも彼氏の前でなんて尚更ね。
挑発だよね。
コレ、挑発と受け取っていいよね??
ははっ、じゃあその喧嘩勝ってやろうじゃないか。

「ちょ、かす…何し…ッ!?//」
「いいじゃんこれくらい。兄弟でしょ?」
いや、兄弟だから駄目なんだよ。
俺は心の中でつっこんだが、シズちゃんは「そうか…?」とでも言いたそうな表情をしている。
そんな訳ないでしょ…;

あ、そだ。
「ねぇシズちゃん、俺マッサージしてあげるよ」
「マッサージ?」
「うん。最近出来るようになったん、だ」
「わっ」

最後の声と共にシズちゃんを押し倒す。
「ちょ…っま、待てって!!」
「え?ヤダ。」
俺の手は細いウエストに触れ、お腹に触れ、胸に置いた。
移動する度にビクビクと震えるのが伝わって来る。
「ひぅっ…//」

左手は腰に置いて優しく胸を揉んだ。
「………っん、いや…」

さっきの赤い顔のままそんな事言われても煽るだけなんだけどなぁ…
多分2人きりならもうちょっと声出してくれるんだろうけど、下唇を噛んで頑なに声を潜めている。

「…っん、ふむぅ…//」

可愛いなぁ…
ずっとこのままならいいのに…

2人はずっと離れなくて…
ずっと一緒に居るのが当たり前で…
こんな事しても一切怒らなくて…
そんな空間がずっと……

「兄貴、僕もやってあげるよ。」

続くわけないよねぇ……


「…や、めろって!!も…いいか、らぁ!!//」
俺の胸・腰の愛撫と、幽くんの下半身の愛撫。
2つが混ざり合って、さぞかし気持ちいいだろう。
瞳が潤んでる…

可愛い。
すごく可愛い。


ごめんね。
シズちゃんの誕生日なのに俺達がプレゼント貰ってるみたいだ…
ちゃんとプレゼントしたい気持ちはあるんだよ?
祝いたいし、おめでとうってちゃんと言ってあげたい。

でもさ、


「「俺等を嫉妬させるシズちゃん(兄貴)が悪い」」




上手に祝ってあげられなくてごめんね

誕生日おめでとう

それと、


生まれてきてくれてありがとう


愛してるよ。





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