小説

□君の魔法にかけられて
2ページ/3ページ



久しぶりの池袋の街に自然に頬が緩む

西口に足を向けると一つだけ飛び出た金髪が目に入った

「シズちゃんだ…!!」
俺は確認するように呟いていた。

隣にはあのシズちゃんの上司が居る。
「……………チッ…」
…ったく本当、2人っきりになった流れにのせて路地裏で強姦☆なんて浅はかな考えをしていた何分か前の自分に反吐が出るよ。
「静雄さっき大暴れしてたけど大丈夫か?なんかあったのか?」

上司とシズちゃんの会話が聞こえてくる。
距離は5メートルくらいだろうか。
彼らの後ろから追っている状態とは言え、自然と聞こえてくる距離感だ。
まぁ、只単に俺が耳をすましているだけかもしんないけどさ。

「いや別に…すいません」
「そっか。何もないんなら良いけどよ。ほら、ほっぺた血出てるぞ?」
そう言ってその上司は親指でシズちゃんの頬をなぞった

「Σ!!」
シズちゃんが驚いて頬を隠す
「……あ、ありがとう…ございます」


ドクン
なんだこれ

「なんかあったんなら俺にも言うべ?」
「…はい。ありがとうございます」

ドクン
シズちゃんの笑顔、上司に…――

「んじゃ、次行くか」
「あっ…はい!!」

シズちゃん元気になっ、上司を、追っ…――

………分かってる。
俺のこの感情は、ただの嫉妬で、それは凄く醜い感情だって事…
ちゃんと分かってる。

あれ?
俺ってこんなに人間らしい人間だったっけ?

『あなた…本当あの人には弱いのね』

何故か今波江の言葉を思い出した

「ははっ……確かに。」
自然と自嘲的な笑みが漏れる。

俺は、シズちゃん相手だと
――こんなにも人間味を持ってしまうようだ…――



「シーズちゃんっ♪」
出来るだけいつものようにシズちゃんが嫌う話し方で喋りかける
「あ゛ぁ?」
――その方が、彼は反応してくれるから。
「今日も仕事ぉ??お疲れ様ーww」
「手前ぇ…っ!!またのこのこと池袋に来やがって…!」

シズちゃん…本気で言ってるの?
来ちゃ悪い?
ずっと会いたかったんだから仕方ないじゃない。
こんなに愛しちゃってるんだから……

言いたいけど、口は動かなかった。

「酷いよねぇ、俺には一切連絡とらなかったくせに上司とはイチャイチャしてさぁ…」
「はぁ!!?」

内心しまった、と呟いた。
こんな事言うつもりじゃなかった。
なかったのに…

「静雄ーっ?」
「あ、今行きます!臨也…二度と来るんじゃねぇ」
シズちゃんはそう言って上司の方に駆けていった。

なんだ。
なんだソレ。
俺は仕事が手につかない程寂しかったのに。
シズちゃんは…
俺の事なんて忘れて、
普通に……
普通に仕事して…
男と一緒に居て…
ただの俺の一方通行で…

ドクン…
あ、また…――

「………って…いよ…」
「?」
微かに聞こえた俺の声に振り向くシズちゃん

「そんなのって、ないよ…」
「!!!」
もう顔上げれない。
シズちゃんを真っ直ぐ見れない。
悲しくはない。
ただ…なんだこの感情…
分からない。
ぐちゃぐちゃとシズちゃんの言葉が俺をかき回してる。

あれ?なんか視界が歪んで見える…

「おい……」
「しっ、シズちゃんなんか…大っ嫌いだぁ!!!」
「臨也……?」

体が熱い。
脳の中が凍ってる。
頬が生ぬるい。

「何泣いて…!!?」

上司と歩いていたシズちゃんが振り返ってこちらに駆け寄る

何言ってるの?
俺が泣く訳ないでしょ?
一度も泣いた事なんて無いんだよ?
生まれた時は知らないけどさ。
俺がそんな人間らしい行為……

「あぁ、そうか…」

俺、シズちゃんの前では人間だったんだ


「静雄…」
「すいませんトムさん。今日休みます。」
「えっ!?シズちゃ…」
「手前ぇは黙ってろ」
「…」
反抗する気にもなれなくて素直に静かにする

「…分かった。今日はゆっくりしな。」
「ありがとうございます」
上司とシズちゃんの間で勝手に話が進んで行く

なんだか力が抜けてその場にしゃがみ込む。
シズちゃんが俺の腕を掴んで路地裏に連れて行く
「ちょ……っ」


「えと…い、ざや??…どうしたんだ?」
初めての俺の泣き顔にビビっているのか、下から覗き込むように話しかけてくる。
乾きかけた俺の涙を袖でゴシゴシこすりながら。
心配そうな顔で、声で。

「……シズちゃんが…ずっと連絡せずに…上司とイチャついたり…俺に冷たくするからでしょ…」

あれ、俺声震えてる。
怒ってる訳じゃないんだよ?
多分ちょっと…

寂しかっただけなんだ。


「………っつの。」
「え?」
シズちゃんの小さな声に反応して顔を上げた。

「お…っ、俺だって、一緒だっつってんだよ!!」
「シズちゃ……?」

顔真っ赤だよ。
なんでそんなに瞳ウルウルしてんのさ。
そんな強い力で掴まないでよ。
ていうか路地裏でもみんな見てるよ?
池袋で一番恐れられている二人が何してんの。

本当にシズちゃんは真っ直ぐすぎる人間だよ。
いや、人間じゃないか。

でも、だからこそ、愛してる。

「俺だって…ずっと会いたかったけど!臨也にだって仕事あるし、連絡したら邪魔だろうし…ていうか!今までお前から連絡して来てたのにいきなり放ったらかすなよ!!俺が…なんか怒らしたかと思っ…―――」


その後は聞こえなかった。
いや、言えてなかった。

首筋に冷たい雫が落ちる。

「……ははっ、シズちゃんまで泣かないでよ。何?そんなに会いたかったんだ?」
いつもの調子に戻ってシズちゃんに微笑みかける。
「あっ…当たり前だろ…ッ!?俺だって一応…ひっく、臨也の事……す、き…なんだから、な//」
真っ赤になった顔で俯きながら言うシズちゃん。
「…だ、から…っく、もう…きらいとか言うなぁっ!」

愛しい、
俺だけの、
素直すぎる化け物


「ごめんね。本当は嫌いじゃないよ。俺もシズちゃんの事…大好きだ。だからもう泣かないで?」
シズちゃんの頬を優しくなぞる。
あの上司より優しく、ゆっくりと。


「うん。……じゃあ、俺から連絡してもいいんだな?」
「当たり前でしょ」

抱きしめるとシズちゃんは、ちょっとだけ戸惑ってからゆっくり背中に腕を回した。


「愛してるよ」
「!!//……お、れも…」
「………何?誘ってんの?」
「違ぇよ!!」



それから俺達は路地裏で色々なコト(笑)をした。


俺は君の魔法にかけられて、
弱くて、滑稽な、ただの人間に成り下がってしまったようだ。





あとがき→
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ