小説

□君の魔法にかけられて
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「はぁ……」

俺は今日何度目かになる溜め息を吐いた

「鬱陶しいからやめてもらえないかしら」
「……関係無いでしょ」
棚の方から聞こえた波江の声に理不尽な答えを返す

仕事が手につかない。
何も考えられない。
何もしたくない。
俺がこんなに調子を崩しているのはどれもこれもシズちゃんの所為だ。

最近…詳しく言うならば6日間、俺はシズちゃんに会えていない。
仕事が忙しすぎて外に出掛ける間なんてなかったのだ。
粟楠会からの依頼で情報整理に明け暮れていた。

本当何なんだよ、粟楠会って。
これでいて将来コネとして使える大きな力だと分かっているから、余計にムカつく。

今恋人とイチャついてる奴ら全員死んじゃえばいいのに。
そして世界中のリア充爆発しろ。

そんな理不尽きまわりない事を考えていると自然に大きな音で舌打ちしていた。


俺達は一応恋人同士な訳だし、シズちゃんからこっちに来てくれたっていいんだけど…
まぁ、あのシズちゃんに限ってそれは無いだろうな。
照れ屋だし、意地っ張りだし、ツンデレだし。
まぁそんな所が大好きなんだけどさ。

あ、ヤバ。多分今にやけてる。

横から突き刺さって来る波江の鋭い視線に気づき顔を上げる

「あなた…本当あの人には弱いのね」
あの人とは、多分シズちゃんの事だろう。
「弱い、ねぇ…」

どうなんだろう。
まぁ、確かにそうかもしれないなぁ…

俺…シズちゃんが相手なら凄く弱くなっちゃうのかもしれない

シズちゃんが居ないとダメだ。
生きて行けない。
シズちゃんに会いたい。
シズちゃんが足りない。

早く会いたい。
会って、抱き締めて、キスして、
それから…

「…はぁ………まぁ、多くは望まないでおこうか」

俺は小さく呟いて、パソコンの椅子から立ち上がった

「俺は出掛けるから波江も帰っていいよ」
「分かったわ」

いつもの黒いコートを羽織って玄関へ向かう。
この家はオートロックなので波江が閉めてくれるだろう、なんて考えながら新宿の街へ出て行く

「あ、そうだ。」

玄関のドアノブに手をかけて振り返る。
「明日は、お仕事二倍頑張ってね☆」
「…はいはい」

俺が上機嫌で出て行くと「…勝手な人」という呟きが聞こえた気がした






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