小説

□確かに此処に
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―――なんだろうか、この感覚は…

君達にもこんな経験は無いかなぁ?
自分がやけに小さな存在に見える事…。

今自分がここに存在しなくてもきっと、この地球は正常に廻り続ける。
誰も気付かず、誰も驚かず、何時も通りの毎日が始まっていくんじゃないか…ってさ。

知らない世界がたくさん広がっていて、今だって自分以外の行動は何種類もある。
その人達は全員他人で、俺の存在を知らない人なんて数え切れない程なんだ。

―――今、静かに俺が消えたら…

きっと、自分の事を愛してくれる人が居ればこんな事思わないんだろうな。
生憎俺をそんな風に思う人は居ない

特別に思ってほしい人なら、居るけど。

「好きだ」と言われた事はある。
遠回しではあるが、言った事もある。
体の関係ももった。
なのに…なんだろうな…
この不安な気持ち。
言葉で言い表せないような…
どす黒いような……
…1ヶ月程会ってなかったからか…?

「なんだろ…俺病んでるのかなぁ…」

会いたい
触れたい
声を聞きたい
抱きしめたい
愛してると言ってほしい
安心させてほしい
あの表情
あの体
あの温もり…
あいつを感じたい…
今すぐにでも……
出掛けようと椅子から立ち上がり玄関へ向かう

「…………」

だが俺の足は止まった
…行ってどうする?
…今20時。
この時間帯は仕事中だろうし、第一会った所でどうなる?
………やめようか…

そんな事を考えていると携帯が鳴った
ピピピピピピ…

「……!」

シズちゃんからだ…
嬉しい……!
けど俺は、それを悟られるのが嫌なので一旦落ち着いてから電話に出る
自分でも素直じゃないなぁって思うよ。

「…もしもし?」
『臨也!!』

畜生…なんて可愛い声出すんだシズちゃんは…
ムカつくなぁ…

「何?」
『あ、えっと…今から会えないか?』

え…っ!!
シズちゃんからそんな事言ってくれるなんて……!
あーヤバい、すっごい嬉しい…
『今ちょうど俺も会いたいと思ってたんだ!』
…なんて言えれば良いのに…

「……なんで?」

どうして俺はこんなに素直じゃないんだ…

『え…最近会ってなかったから、さ…』

ごめんね…本当は嬉しいよ
俺も会いたかったよ
ずっとシズちゃんの事考えてたよ
だからそんな悲しそうな声を出さないで

「忙しいんだけど?」

シズちゃんが電話の向こうで弱っている事を理解した上で俺は毒を吐く
少しの間沈黙が続いた

『………………………ひ……っく…』
「へ?」

一瞬耳を疑った
気の抜けた声もでた

え…ちょっと待って…
何今の…
今のって今のって…
…泣き声、だよねぇ……

「し、シズちゃん?」
『……んだよっ!!!!』

電話から大きな怒声が聞こえた

『っ…俺は…会えなくなってからずっと…お前の事考えてたのにっ…!お前は…ちが、違うのかよっ…!!1人でずっと考えこまされてたのかよ…!』

何!?シズちゃんが会えない間ずっと俺の事…
それで、俺に突き放されて泣いてる…?
………
…………か、
……………かわいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!///
ちょ…!
何この子!
今すぐ俺のお嫁さんにおいで!!

嬉しい…
けど素直になれないのが俺だ
普通に『ありがと』って言えばいいのに…

「何?シズちゃんてばずっと俺の事考えてたんだ?乙女だねぇ?」

シズちゃんは泣きじゃくりながら叫ぶように言った

『ひっ…だ、まれっ…!俺は……!』

ん?おかしい
電話の声とは違う声が耳に入ってくる
だが、それもまたシズちゃんの声な訳で。
それはつまり……
つまり…

バンッ

「お前のせいでなぁ……ずっと苦しめられてんだよ!!!!」

ドアが開く音
誰かが叫ぶ声
俺が持つ電話からはツーツーという機械音
俺の部屋に入って来たそいつの手から鉄の塊(元の形があったのを握力だけで潰したかのようなぐちゃぐちゃな形の物)が落ちる
そして唖然とする俺は辛うじて彼の名前を口にする

「シズ……ちゃん…?」
「っわ…悪ぃが玄関…ぶち壊したから」
「……あのねぇ…;」

セキュリティーがしっかりしてある玄関だよ?
それをぶち壊してさ…きっと修理費高いよ?
なんなの?
馬鹿なの?
死ぬの?

「……そんな馬鹿な事して家に入ってまで会いたかったの?」
「…あ゛ぁ?」

シズちゃんは機嫌悪そうに聞き返してきた
「俺に…そんな価値あるの?……無いでしょ」
「…ざや…ひとつ言っておくがなぁ…」

ズボンのポケットに手を突っ込んでズカズカと近づいてくる

「その価値とやらは…自分で決めるもんじゃねぇんだよ!俺がお前に会いたいから会う。それ以外に理由いらねぇだろうよ!!少なくともお前には俺に会いたいと思われるような価値があるんだ…っ!!」


…シズちゃんのこんな姿見た事無いや…
いや、俺の事をこんなに言ってくれる人自体見た事無いか。
シズちゃんはまだ叫び足りないようで「つーか価値って何だよ」とか呟いている
涙はまだ溢れ続けていて目はもう真っ赤だ
価値、ねぇ……
俺には分からないよ

俺が居ても良い場所はあるの?
俺を必要とする人は居るの?
俺を愛してくれる人は世界に存在するの?
俺が離れて行こうとしたら誰か引き止めてくれるの?
分からない
恐い

いつも…
………俺は1人な気がしてならないんだ
「…でも俺が居なくても世界は回るよ?シズちゃんもきっとスッキリ俺を忘れて日常生活を送る事だろうよ」
「忘れられたら苦労しねぇよ!!!!」

部屋の中にシズちゃんの叫びが木霊する
シズちゃんが顔を上げた勢いで涙が宙に舞う

「その証拠に…俺…この1ヶ月…本当に…本当、に…」

また下を向いて泣き出す
泣いて、泣いて、まだ涙は止まらなくて
その口から紡がれる言葉は全て途切れていた

「本当に……辛かった…!」

シズちゃんは俺の胸に手をぶつけて体重を預けてくる

「…………馬鹿だよね、シズちゃんって。」

軽く微笑んで自分の下にあるシズちゃんの頭を見つめる
痛んだ金髪のそいつからは常に「ひっく…」という泣き声が聞こえていた

「お前自身がお前を…どう思ってたっていいさ!だけど…俺はっ…」

シズちゃんの背中にゆっくりと手を回す
「俺…は…お前の事………だから、それで…いんじゃねぇの…///」
途切れ途切れに…
でも確かに俺の顔を見ながら紡いだその言葉は体の奥に染み渡って行った気がした

おっと、危ないニヤける所だった……クールにクールに…

「シズちゃん…こういう時ぐらい聞き取れるようにちゃんと言ってよ」

悪魔で上からの目線でそう言う

「……………チッ…俺は…お前の事好きだからっ!!///」

真っ赤になったそいつの顔はとっても可愛いくて

「だから……此処に居ろよなっ!!//」

俺の仮面をも破ってしまうんだ

「な、何ニヤついてんだよ」
「ん?いやシズちゃんが可愛すぎてさ」
「おま…っ!!///」




(まだ自分の価値なんて分からないけど、シズちゃんが望むのなら此処に居てもいいのかもしれない)
(逆に言えば、シズちゃんが望んでくれている間は確かに此処に居続けるよ)
(シズちゃんは俺の事)
(好きらしいし、ね)






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