(drrr!! 静臨)

□嫌いって言ってよ
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体が重い。
そこらじゅうが痛くて、気分が悪い。
体はベトベトしてるし動かないけど…
ただ一枚だけ掛けられている薄いYシャツ
いつもシズちゃんが着てるやつだ…

「………チッ…こういう所大っ嫌い」

シズちゃんはどこに行ったんだっけ…
あぁ、お風呂か。
この部屋は狭いからシャワールームの音も丸聞こえだ

頭痛で動きにくい脳みそを無理やり回転させ、昨日あった事を思い出す
「…そだ」

仕事で池袋に行った新宿へ帰ろうとすると誰かに手を掴まれ裏路地に連れて行かれる
それから………
…好きだとか、愛してるだとか、離れるなとか、俺以外の奴に傷つけられるなとか
自分勝手極まりない事を散々言われて、散々ヤられて……

ムカつく以外のなんでもない。
でも、今までシズちゃんは俺を壊れやすいガラスのようにゆっくり優しく扱ってたもんだから、昨日はすごく驚いた。
溜まってたのかなー……

…そしてその後覚束無い俺の足取りを心配して、家に泊まらせてくれた
『くれた』って言っても原因はシズちゃんなんだけど…。
でも確かに助かった
頭はガンガンしてたし、多分あのままじゃ家にたどり着けてたかどうか……


あいつは俺を「好きだ」と言う

俺はあいつが大嫌いで、
あいつも俺を嫌ってた筈だ

毎日会ったら喧嘩して、憎たらしくて、大っ嫌い
そんな関係だった筈だ

喧嘩したり、からかってる方がきっと楽だと思わない?
分からないかなぁ…

失う物なんていらないんだ
失ってしまうのなら始めから手にいれなければ良かった、と後で自己嫌悪するのがオチだから。

俺を欲しいと言う人が恐いんだ
うっかり俺も相手を欲しい、なんて願ってしまって叶わなかったら心が痛むのは分かりきってるから。

いつでも、誰にでも、付かず離れずの関係

それが一番楽だから、
それを一番望むんだ。

好きだなんて言ってほしくない。
俺はずっとあいつが大嫌いだから。








ガラッ
バスルームの方から音がする
それによって、あいつがそろそろこちらに来る事を理解する
「あ…臨也、起きたのか」
「うん。シズちゃんの所為で体動けないけどね。」
「う…//す、まん…」
「うわ、謝んないでよ。気持ち悪い。」
「気持ち悪いって何だよ!」
いつも通りの会話を装う
シズちゃんは馬鹿だから気づいてないんだろうな…
俺が今考えてる事なんて。

「ねぇ、シズちゃん…」
「あん?」
「……誰でも良かったんだ、て言って」
「……」
ほら、やっぱり。
彼は案の定、は?と言わんばかりの表情でこちらを見る

「言ってよ」
「…………分ぁった」

シズちゃんが優しく笑って、俺の耳に口を近づける


「―――――…」
低く響く声

「…馬鹿。死んでよ」
「嘘じゃねぇもん」
「そういう問題じゃないし。死んでよ」
「…同じ事二回言うか」

彼は一瞬呆れた表情をしたけど、いつもの表情にすぐ戻る
シズちゃんが俺だけに向けるその表情

…知ってるんだ
シズちゃんがそんな表情になるのは好きな物を見る時だけだ、って。
シェイクとかプリンとかと同じレベルかと考えればムカつくけど、シズちゃんのいつも言う言葉が嘘じゃない事は分かる
そして、きっと今言った言葉も嘘じゃないんだろうね


『お前じゃなきゃ駄目なんだ』って。


俺は失うのが恐くて
離れていくのが恐くて
だから誰にも近づかなかった

「好きだ」と言われたら
いつか言われる「嫌い」が恐くなるから
そんな言葉無くなれば良いと思っていた

だけどシズちゃんがそんな事言うから…

「はぁ…本当ムカつく、死んで。」
「やだ。……俺はお前の隣に居なきゃいけねぇんだ。」

シズちゃんが言う一言がすごく恐くなって、

「は?何それ。誰もそんな事頼んでないんだけど。」

シズちゃんが言う一言が無いと生きて行けなくなって、

「もう決めた。お前が俺を好きになるまで嫌でも隣に居る。」

シズちゃんが言う一言で感情が右往左往する。


「…ったく、そんなんだから俺はずっとシズちゃんが嫌いなんだ…」


零れた涙に気づくまであと3秒…―――

彼が掠れた声で感謝の言葉を紡ぐまであと10秒…―――

彼の体が優しく包まれるまであと…―――
あと…―――
あと…―――――




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