鋼の錬金術師短編夢
□変わる立ち位置
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「〜〜っはよ〜・・・アル・・・」
「おはよう兄さん、姉さんもう行っちゃったよ?」
「あ〜・・・もうそんな時間か・・・」
大きなあくびをしながらリビングに入ってきたエドワードはアルフォンスと挨拶を交わし、彼の座っている向かいの席に腰を下ろした。
姉が用意してくれたのだろう、テーブルにはサンドウィッチとサラダが置かれており、アルフォンスがサイフォンでコーヒーを入れている。
「兄さんもコーヒーでいい?」
「あぁ、飲む飲む。サンキュ、アル」
コポコポといい音がして、サイフォンからコーヒーが注がれる。
目の前のサンドウィッチを取りかじる
アルフォンスの入れたコーヒーはとてもいい香りがした。
2人はいまイーストシティの姉の下で生活していた。
身体が戻った後、暫くはリゼンブールのウィンリィの元にいたが、やはり大好きな姉のカノンとのんびりした時間を過ごしたかったようだ。
カノンは更に昇進し現在は小将になっている。
こちらの世界では考えられない高度な医療技術、錬丹術と錬金術をあわせた医術はもはやこの世界の最高峰と言えるだろう。
軍のお抱えの医療施設を管理、指揮しており忙しい日々を送っている。
「ねえ兄さん、6月7日。何の日か覚えてる?」
「・・・・・何だっけ?」
そんな兄の返答にアルフォンスは大きな溜息をもらす。
自分達の大事な人の大切な日を忘れるとは、なんともイベント事に疎いエドワードらしい。
「もぉ、兄さん!6月7日は姉さんの誕生日じゃないか!忘れないでよ!!」
「〜〜〜〜っあ〜〜・・・・そうだった・・・」
「もう来週だよ?プレゼント何にしようかなぁ・・・」
アルフォンスもサンドイッチを口に運びながら、姉へのプレゼントを思案していた。
だがエドワードは違い、《プレゼント》という単語から1つの不安を感じていた。
姉のカノンは性格もよければ器量も良い。
加えて軍の地位の高さにもかかわらず、人に命令口調で話す事を良しとせず、とても物腰が柔らかい。
それ故に言い寄る男が耐えないのだ。
バレンタインの時など、車に乗り切らない程の逆チョコレートを押し付けられ、困ったカノンがエドワードとアルフォンスに電話を寄越したほどだ。
それをまた律儀にホワイトデーには貰った人全部を覚えていてお返しをするものだから、なんとも人が良すぎる。
それを思い起こすだけでエドワードのこめかみに青筋が立つ。
本来アメストリスにはバレンタインという物は存在しない。
カノンの世界のイベントらしく、幼少の頃から毎年貰っているチョコレート。
軍に入ってからは近しいものにも配るようになり、どんどん広まってしまったのだ。