鋼の錬金術師長編夢
□奔走
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それと同時、カノンは自分のポケットから一つの小さな箱を取り出す。
それはカノンの世界の通信機器・・・携帯電話だった。
こちらの世界では本来機能を果たさないそれだが、カノンは軍に属すると決めた時自分で少し改造していた。
軍にいれば否応なしに危ない場に出くわす事もある・・・誰にも盗聴されず、特定の人物にだけ連絡を取れるようにと・・・
ベースがこの世界の物ではないため電波も特殊、この世界の人間に傍受は不可能なはずだ。
同じものを錬成し、1人の人物へと手渡していたのだ。
そう、自分がこの世界で兄弟以外で信頼している人物へと・・・
ダイヤルは必要ない、コールボタンを押せばすぐさま相手の電話が鳴る・・・
そしてしばしの間を置いてそれに応じたのは、低い・・・テノールの声を持つ男性だった・・・。
カノンは少しでもヒューズの状態が悪化するのを食い止めるよう、両手をずっとその胸へと沿え術を発動させながら、その人物と会話を始めた。
「カノン?どうした・・・なにがあった?」
『クロウ、お前シンで錬丹術を学んでみたいと言っていたな』
「よく覚えてたなそんな事・・・」
『その費用、全て私が持ってやろう。お前にシンにいってもらいたい』
突然の脈絡のない言葉に、怪訝な声色で返すクロウという人物。
しかし何故シンなのか・・・考えるまでもない・・・
ヒューズは何かに気付き口封じに殺されるところだったのは、あの書庫の惨状と今目の前で横たわるヒューズの姿が物語っている・・・
とすれば助けられたとしても国内にいれば、またもや命を狙われてしまう可能性は否めない・・・
カノンは考えをめぐらせ、国外へ隠すのが一番だと思ったのだ。
シンならば自分が滞在していた時に買った部屋もある・・・身一つで逃げても何とかなるだろうと・・・
「・・・カノン、それで今は何が必要なんだ?」
『流石はクロウだな、話が早くて助かる』
「そりゃあねぇ、それを言うためだけなら明日でもいいはずだ。わざわざこんな時間に緊急用使っての連絡ときた、今すぐ・・・それも早急にして欲しい事があるんだろう?」
『すまない・・・お前はまだあの医院に勤めているか?』
「あぁ、まだいる」
あの医院、それはカノンが軍に入る前勤めていた中央の病院だ。
クロウはそこの医師でもあり、カノンがこの世界で唯一・・・現実世界の医術を細かに教えていた存在・・・
それだけでカノンがどれほどこのクロウという人物を信頼しているかが分かる・・・