鋼の錬金術師長編夢
□奔走
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『っ・・・はぁ・・・はっ・・・』
カノンはひたすら走っていた、ヒューズの姿を求めて・・・
やっとの思いで視線の先に映る電話ボックス・・・
その扉からかすかに見える両足に、目を見張った・・・
心臓が脈打つ・・・早く・・・強く・・・
カノンは目頭が熱くなるのを感じながらそれに走り寄った。
『マース・・・マース!!』
はっきりと見えたその姿は、間違いなく自分の探していたヒューズ中佐その人だった・・・
意識も無く硬く閉じられた瞼・・・胸から溢れる鮮血、カノンは自分が汚れる事など構わず、その胸に耳を当てた。
今にも消えそうなかすかな心音・・・このままでは間違いなく死ぬ・・・
カノンは徐に両手を合わせ胸へと触れた。
青白い光と共に止まる出血、しかし血が止まっただけで致命傷なのには変わりない、一刻の猶予も無かった・・・
(ヒューズ!!・・・なにがあったヒューズ!誰かそこに居るのか!?)
カノンがヒューズを呼ぶ声が受話器にも届いたのだろう、第三者が居るのではと問いかけるような声・・・
垂れ下がる受話器から聞こえる声に気付いたカノンは、それを耳に当てた。
『その声・・・ロイか?』
"カノンか!?なにがあった、ヒューズはどうした!"
『ロイ・・・・ヒューズが死んだ・・・』
"な・・・なん・・・だと?"
『ロイ・・・すまない・・・すまない・・・』
"カノン・・・カノン!"
それだけ言葉を交わすと、まだ言葉が紡がれている受話器をカノンは置いた・・・
軍の内部でヒューズが襲われたという事実に、カノンは警戒心を強めていた。
必ず助けられるかは分からない・・・
しかし、この場でヒューズがまだ生きていると・・・知られるわけにはいかなかったのだ・・・
(ごめんロイ・・・誰が何処で聞いているか分からん・・・外の公衆電話だとて、盗聴されていないとは言い切れない・・・
ヒューズは私のできる限りをもって治療に当たる・・・だから・・今は許してくれ・・・)