鋼の錬金術師長編夢
□記憶
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黒衣の女は48の頭部をその鋭い指で真っ二つに割り、少年はその鎧の胴体にある血印を落ちていた刀で刻んだ・・・
もうその鎧から声を聞くことは出来なくなった・・・
普段のカノンなら、まず黙って見ているような光景ではないはずなのに、動く気配がない・・・
エドワードもそんなカノンの様子がおかしい事に気付き目をやると、今まで見た事がないほど蒼白な表情で俯くカノンの姿がそこにあった。
「おっ、おい姉貴!どうしたんだよ!!」
『・・・・こっ・・・・声・・・・』
「声・・・?」
『この・・・声・・・・そんなまさか・・・ありえん・・・』
ぶつぶつとうわ言のように呟きながらその額に汗が滲む。
そんなカノンの様子を楽しむように、エンヴィーと呼ばれた少年が声をかけた。
「へぇ・・・ボクの声・・・覚えてるんだ・・・、久しぶりだねぇ、カノン♪」
そう言って笑うエンヴィーは至極楽しそうで、カノンは自分の思っている事を肯定するような台詞にますます青くなる。
尋常じゃないカノンの様子にエドワードも焦りを感じていた。
『ばかな・・・あの時から何年たっていると・・・』
「お・・・おい姉貴・・・?」
「それっていつの話〜?君の両親が死んだ時?それとも・・・・"この世界に飛んだ時"・・・?」
『「なっ・・・!?」』
その言葉にカノンも勿論だがエドワードも目を見開いた。
赤の他人が知っているような事ではないはずだからだ・・・
両親の件もそうだが"この世界に飛んだ"と、エンヴィーはそう言った・・・
カノンはその言葉に、自分がこの世界に来るきっかけとなった事故が頭の中に蘇る・・・
その記憶の中にまでもこの声を聞いた覚えがあっただろうかと考え巡らせる・・・
「とりあえずさー、今ここでカノンに動かれると厄介なんだよね〜、とりあえず寝ててくれる?」
言うと同時にカノンの腹部に繰り出される拳・・・
目の前で起きている事があまりにも想定外で、思うように身体を動かす事が出来ないでいるカノンは、その拳をまともに受けてしまい意識を手放した。