コナン&まじ快
□生と死と、それからの11年
2ページ/11ページ
胸の痛みが一際強くなり、次に襲ってきたのは急激な眠気。
痛くて痛くて睡魔など襲ってくるわけもないのに、目を開けていられない。
"あぁ、これで死ぬんだ"と、妙にすっきりと頭で理解していた。
完全に目を閉じる間際、もう私の目に映るものは暗黒のみで、閉じられた意識はどこへ行くのだろうなんて事を考えていた。
そして閉じられた瞳はもう開くことはないのだろうと・・・
そのはずなのに、なぜか今私の目は開いていた。
けれど視界はぼやけていて目の前のものがはっきり見えない。
私は死んだはずではなかったのか、目を閉じる前の意識を引っ張ってくるが何かがおかしい。
死んでいなかったとしても、いくら視界がぼやけていたとしてもこの大きな違和感に気づかないはずがない。
まずうまく声が出せない、後遺症で喉がやられたのかと思うがそうでもないらしい。
そして何より何人もの大人が取って代わるように私の身体を軽々と持ち上げ温かい湯に浸けられたり身体を拭いたりされる。
あらぬ所まで知らぬ人に触れられ羞恥に覆われるが身体すらうまく動かすことができない。
ただ周りから聞こえてくる会話や自分の違和感に、少しずつだが置かれた状況を理解した。
『おめでとう御座います、元気な女のお子さんですよ!』
『本日はこちらで預かりまして、明日からは同室で過ごせますからね〜』
どうやら私は前世の記憶や知識を持ったまま産まれ変ってしまったらしい・・・
そんな馬鹿なとも思うが、ひと月もしない内に現実を飲み込んでいた・・・と言うよりは飲み込むしかなかった。
筋肉や骨がまだ発達していない所為で動くことすらままならず、そして何より完全に視界がクリアになってくると自分の手の小ささに驚いた。
すべてを理解した上でまずしたことは、それらしい年の子を演じること。
当たり前だ、いくら言葉が分かるから、周囲のことを理解できるからといってこの赤子の姿で、言葉だけとはいえ生前と同じように振舞えばただの気味の悪い赤子に過ぎない。
下手を打てば人によっては、何かが乗り移っているのではないかなんて、病院やらお払いやらたらい回しになるに決まっている。
幸い、産んでくれた母とその夫、つまり自分の父であろう人達はいい人だ。
私が生まれたことを心から喜び、私に触れるときもとても大事そうに触れてくれる。
そして何より、生前・・・つまり生まれ変わる前に抱えていた胸の痛みはかけらもない。
"輪廻転生"それが本当にあったのだと、記憶を持ったままなんて展開に戸惑いはあれど嬉しくて嬉しくて、自分で動けるようになったらまず何をやりたいか、何をしてみようか、なんて夢を膨らませながら、のんびり身体の成長を待つのも悪くない・・・なんて思ってしまった。
両親につれられ所々で耳に入ってくる人の会話。
この世界に産まれてからずっと感じてきた違和感。
風景は生前病室の窓から見ていたものと大差ないのに、知らない町の名前が多々あること。
そしてなりより常に点いているTVから流れるニュースで、間違いなく過去生きていた世界とは異なる場所なのだと理解した。
パリで活動している怪盗のニュースは特にそれを強く示していた。
怪盗1412号という名の怪盗、そんなニュースは今まで耳にしたことがない。
母の膝に抱かれ中継を目にしたとき、私は得も言われぬ高揚感を感じていた。
現実離れしているその怪盗は、空想や小説が大好きな私の心を打ち抜くのは簡単だった。
そんな怪盗をモチーフにしたような小説が書いてみたいと創作意欲を駆られたというのもそうだが、ここが違う世界なのならば、今まで読んだことのない本や物に出会えるかもしれないと・・・
はやく成長していろんなものを見て回りたい、そして得た物・知識でもっともっといい小説を書いてみたいと、自分の気持ちを抑えるのでいっぱいいっぱいだ。