鋼の錬金術師短編夢
□Happy Valentine
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「・・・っ、ロイ・・・?」
「カノン・・・会いたかった・・・何よりも君に、会いたかった・・・」
「ロイ・・・」
カノンはそんなロイの背中へと手を回し、それに答えるように力を込める。
今までのカノンなら、"分かった分かった"とでも言うように背中を叩く事はあっても、抱き返してくれる事は無かった。
ロイは今までに無いカノンの反応に首をかしげ、抱きしめる力をさらに強めた。
「カノン・・・何か、あったのか・・・?」
「あった・・・と言えばあったのかな・・・」
「・・・カノン?」
快活で物事をはっきり言う彼女らしくない言葉じり・・・
何より、リゼンブールからわざわざ自分の所へ来た事など、言葉を濁してはいるが本当に何かあったと思うしかない。
「カノン、私でよければ何でも言ってくれ・・・
あまり一人で抱え込むものではないよ、私はいつだってカノンの力になりたいと思っている、信じてくれ・・・」
「ロイ・・・すまん、そんな大げさな話ではないんだ、私の気持ちの問題でな・・・」
どちらともなく、ゆっくりと身体を離し視線を絡ませる。
改めてみるカノンは穏やかに・・・そして柔らかく微笑んでいて、とても何か問題を抱えているようには見えない。
ロイも今一自体が飲み込めず、続きを促すようにひとつ、頷いた・・・
「ロイ、今日何の日か覚えているか?」
「今日・・・か、ふむ・・・」
そう問われ考えては見るが、今日この日、何かイベントがあっただろうか・・・
覚えてはいないが、カノンがわざわざ問うくらいだ、何かしらあるのだろう。
日付では思い出せないため、この寒い時期で記憶にあるものを引っ張り出してくるが、思い当たるのはクリスマス位だ。
ますます分からなくなるが、それを問う人物がカノンという事で、1つだけ脳裏に蘇る甘い思い出・・・
「あぁ・・・バレンタイン・・・だったか?」
「はは、流石ロイだな。こっちの世界のイベントではないし、忘れているだろうと思ったのに・・・」
「いや、言われるまでは忘れていたよ・・・
しかし知り合ってから毎年・・・この時期にカノンからショコラを貰っていたのを思い出してね」
「そうか・・・覚えていてくれたのか・・・」
「当然だろう?カノンからの大切な贈り物だ・・・
それが愛を語らう日にわざわざ私へ用意してくれたんだ。
たとえ友人としてであれ、嬉しかったからな・・・」
「友人として・・・か・・・」
「・・・・カノン?」
ロイもまさかそこを復唱されるとは思わなかったのだろう、カノンから聞こえた自分を問うような声に疑問を覚えた。
兎にも角にも兄弟一番で、それ以外のものには友人以上の感情は抱かないカノン。
彼女に思いを寄せるものとしてはあまりに大きい"兄弟の壁"に眩暈を覚えたものだ。
勿論ロイもその一人だった訳で・・・だからこそ、今日この日に態々自分の下へと来てくれた事、そして今までに無いカノンの態度・・・
自分にとって、悪くない状況なのでは無いだろうかと少しの期待が湧き上がる。
しかし何か相談事があってという事も今だ拭い切れない。
自分の事はさておいても彼女にはいつも笑っていて欲しい・・・、そんな思いから、何よりもまず彼女の話を聞く事にした。