灰色 長編

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私と神田さんがいるのは、ウォーカーくんがいるところから少し離れた建物の屋上。ここからは事態を全て見渡せる。どうやらウォーカーくんは大事には至らなかったようだ。神田さんは、今の事態を整理してどう出るか考えているらしい。それにならって私も思考を巡らせる。


「…」


あそこの結界装置で守られているのが人形と考えるのが妥当だろう。いくら科学班の頭脳が天才的だと言っても、あれは長くはもたない。恐らく、結界装置を取り囲んでいるレベル1のアクマが後3回でも攻撃すれば、あれは破壊されてしまう。


「結界を増強しましょうか?」
「後手にまわる必要はねえだろ。レベル2はモヤシに気を取られてる」
「では、人形はお願いします」
「最初からそのつもりだ」


ニヒルな笑みを浮かべて、神田さんは六幻を構えた。どうやら先ほどまでの機嫌の悪さは改善された様子。


「私はウォーカーくんを援護します」
「ふん…好きにしろ」
「ええ。どうかご武運を」
「…いくぞ六幻!」


神田さんが六幻を発動したのと同時に、私もイノセンスを発動し、臨戦態勢をとる。飛躍していく神田さんの背中を眺めながら、私も行動をとった。


「六幻 災厄将来」
「界蟲『一幻』!!」
「あーっ!!?もう一匹いた!」
「…」


完全に自我を持ったアクマ…。レベル1に比べて相当能力も上がっているし、知能も付いているはず。ウォーカーくん一人では致命傷を負いかねない。


「あ゛―――――!!人形ちゃんが…」


神田さんが上手く人形の元へ到着したようだ。人影に向かって駆け寄っていくのが見える。


「こここ殺じたい!!!とりあえずお前を殺じてからだ!!」


ぞくぞくと背筋をかけるような嫌な空気が、ここまで感じられる。これは、ウォーカーくんにあてられた殺気らしかった。


「そっちは後で捕まえるからいいもん!」


人形を両手に抱え、建物の屋上にいた神田さんが、ちらりとウォーカーくんのことを見下ろした。それに気付いたウォーカーくんも、神田さんの方を見ている。


「俺は助けないぜ。感情で動いたお前が悪いんだからな」
「いいよ置いてって。イノセンスがキミの元にあるなら安心です」


そう言った時、ウォーカーくんの視線が既に息絶えたファインダーさんの方へ向いた気がした。その鮮血とももう言えない、どす黒い赤を纏って倒れる影の姿が、無意識かつ鮮明に私の脳裏に焼きついた。


「僕は、このアクマを破壊してから行きます」
「ヒャヒャヒャヒャヒャ―――!!」


そこからウォーカーくんとアクマの戦いが本格化した。両者はぶつかり合い、互いに倒れる。


「ぐへ」


体制を立て直したアクマに、ウォーカーくんは手近な壁を放り投げた。が、その大きな壁のせいで一瞬ウォーカーくんの視界から消えたアクマは、その僅かな時間に自らのニセモノを作り上げた。昆虫が成長する時の脱皮のように、皮を一枚剥いで。


「ウォーカーくん!!!!」


こちらからはそのアクマの行動は見通すことが出来たが、恐らくウォーカーくんからは何も見えていない。

ボンッ


「ウォーカーくんっ!!!!」
「おおおおおっ」
「ウォーカーくん!離れてください!!!!」
「!!」


私の声にようやく気がついたのか、それとも自分の感覚で気がついたのか分からないが、ウォーカーくんがアクマの正体がニセモノであることに気がついたようだ。だがもう遅い。本物のアクマは彼のすぐ近くに、


「っ……無罪ノ加護!!」
「ここ、ここ!」


ガキン



 

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