小説

□作者の怠慢
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 今日、三十路を迎えた隆史はようやく床に就くことができた。
 現場工事の疲れを癒やすには寝るのが一番だ、そう思ってベッドに入った隆史は、次第に意識が遠のいていくのが分かった。
 しばらくすると、夜中なのにもかかわらず、窓から非常に眩い光が煌々と隆史を照りつけた。その謎の光はカーテンの遮光性をもはねのけ、数分にも渡って隆史を照らし続けた。
 それに気づいた隆史は目を覚まし、何事だ、と思って急に上体を起こした。あまりの眩さ故に、思わず腕で目を覆ってしまった。
 しかし、隆史には、その謎の光の元凶を詮索する気力などは残ってはいなかった。仕事で溜まった疲れが隆史の眠気を増大させていたのだ。さすがにそれには対抗できない隆史は、その不思議な光の詮索なんかよりも、今はとにかく眠ることの方が重要だと本能的に判断し、光とは逆の方向を向いて横になり、そのまま熟睡してしまった。

 結局、その光は謎に包まれたままとなった…。

 ……もしここで隆史が完全に目を覚ましていれば、彼は間違いなく人類史上初の宇宙人との遭遇、などといった非現実的な体験をしただろう。しかし彼は、私の意志に反して寝てしまった…。物語の主人公が寝てしまっては、作者の私でもどうすることもできない。お開きだ。
 せっかく今までで一番良い作品ができると思ったのに。
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