15000HIT企画
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「彼、堺良則って言うんだって。」
城の中、俺と堀田は、窓から海を見ている堺さんを見つめていた。
「堺さんさ、声が出せないらしいんだ。あと、いろいろとわからないらしいんだよねー。」
聞いた話によると、何も思い出せないらしい。
どうして溺れていたのか、どうして声が出ないのか。
本当に謎だらけだった。
「ほ、本当ですか?敵国のスパイとかじゃないですか…?」
恐る恐る聞いてくる。
「んー…。スパイとかじゃないと思うんだけどなぁ。」
海でみたあの真っすぐな瞳は、嘘をつくようには思えなかった。
でも…。
どこか寂しげな表情をするときがある。
それは、決まって俺の話を聞いた後だった。
俺は、何か彼にしたのだろうか?
そして、彼が言ったこと全てが本当のことだとはどうしても思えなかった。
だけど、彼が知らないと言っているのだから、自分たちに危害が及ばないのなら、無理をして真実を聞き出さなくてもいいんじゃないかとも思う。
「それで、堺さんを城で預かろうって思うんだけど。いいよね。」
「はぁ…。どうなっても知らないですよ。」
「へい、へーい。」
話の中心になっている、堺さんへと目を戻すと、彼は、水槽の中の魚達を見つめていた。
「何を見てるの?」
彼の後ろに歩み寄り、彼の見つめる魚達を見た。
そこの海で俺が捕まえた魚達だった。
色とりどりの魚達は、優美に泳いでいる。
堺さんは、俺の言葉を聞いて、水槽のガラスに息を吐き、文字を書き出す。
(魚見てた。)
また、息を吐き続きを書き出す。
(かわいそうにって思っただけだ。)
「かわいそう?」
堺さんは、ずっと水槽を見つめている。
何がかわいそうなのだろうか。
ここにいれば、敵の魚に襲われることもない。
毎日、餌も与えられ、何不自由もなく暮らしていけるのに。
どこがかわいそうなのだろう。
俺が腑に落ちていない雰囲気を感じ取ったのか、また堺さんが文字を書き出す。
(こんな小さなところに閉じ込められて、かわいそうだ。)
「閉じ込められて、かわいそう…。」
俺は、無意識の内にその言葉を繰り返していた。
繰り返される毎日。
毎日同じ時間、同じ場所に閉じ込められて、機械のように操られる。
いつになったら、この無限の日々は、終わるのだろう。
そんなことばかり思って、暮らし続けて…。
つんっと堺さんが俺の袖を引っ張った。
(どうかしたのか?)
心配そうに覗き込んでくる。
だけど、眉間にシワは寄っていた。
「あー、ごめん。少しボーってしてた。」
あわてて笑顔を作る。
この水槽の中で泳いでいる魚の気持ちなんて考えたことなんてなかった。
だけど、堺さんはそんなことも考えてしまう。
変わった人だ。
そう思ったけれど、この魚達を見ていると俺は、なんだがわけのわからない気持ちになって来ていたのは、事実だった。
こいつらも、そう思っていたのだろうか…。
何もしゃべらない水槽の魚を見つめながら、俺はただ、そんなことを考え始めていた。
そして、その光景を堺さんは何もせず、見つめていた。
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