15000HIT企画
□1
1ページ/1ページ
水を掴む手。
沈んでいく体。
俺は無重力の空間の中、ただ、この身体を預けていた。
口を開くと、小さな泡が空へと登っていき、その代わり、口にしょっぱい水が広がる。
身体を着飾る服達はおもいっきり水を吸い込み身体にまとわりついていた。
だけど、そのことなど一向に気にせず、ただただ、この母なる海の中を沈んでいくだけだ。
視界は、暗闇に等しく、耳もただ水圧でおかしくなっているだけ。
何も聞こえないし、何も感じない。
空を見上げると、木のかけらや、船の破片がプカプカと浮いている。
その影は小さく、ゴミが浮いているようにしか見えない。実際ゴミになってしまったわけだが。
ああ、俺もこのゴミのように死んだらプカプカと浮いてしまうのだろうか。
このまま、海の底に沈んで海の藻屑になってしまいたいのに、水と油のように海とは一緒になれないで、人として、死体になってしまうのだろうか。
どうせ死ぬなら、誰にも見られないで綺麗に死にたいのに。
俺は、死ぬのかな。
死ぬよね。
そうだよね。
他のみんなが必死にもがいて溺れていくのを見た。
そこまで無様なかっこをさらしてまで生に執着したくはない。
それなら、綺麗にいさぎよく死んだ方がいい。
だから、俺は、このまま…。
ゆっくりと口を開き、口の中に海水を送り込む。
塩が喉を通り、まず食道に行き渡る。
このままいったら、気管にも海水は行き渡るだろう。
そしたら、俺は楽になれるのだろうか。
俺は、自由になれるのだろうか。
ふと、何も聞こえないはずの耳にナニカが聞こえた。
「このバカ!死ぬ気かよ!? 」
その瞬間俺の気管にも海水が入りこみ、今度こそ俺はこの広い海に全てを任せて、眠りについた。
この恋は泡のように儚く、されど深海のように暗い
揺れる海に抱かれ、眠る。
まるで、恋人に包まれているかのようだった。
.