万栄傾城記
□第三幕
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【壱】
都は憂いていた。
偉大なる存在の喪失を悲しむ声。
幾多の戦で勝鬨をあげ、今は大陸最大となったこの国に君臨し続けた断首神君太上天帝が、長患いの末に亡くなられたのだ。
まもなく行われる盛大な葬儀を待つばかりの民達は、ひたすらに嘆き暮れる。
そんな民達の嘆き悲しみを受けたのか、地平まで延びる空は厚い黒雲が覆い尽くし、しとしとと涙雨を大地に注ぐ。
それは都自体が海の底に沈んだかのように人々の心にまで靄を落としていた。
止まった時間。天そのものが死んだような世界の中では誰もが家に引き籠り、王の安寧を祈る。
だが、そんな無人の大通りに人の姿があった。
緋の唐傘を差して、真っ白い着物の端を濡らす雨を諸ともせず、ただまっすぐ大通りをあるく人影。
それは紛れもなく女。
日の光の下であれば誰もが振り返る美貌を傘に隠し、女は静かに、王都の中心、王宮を目指した。