万栄傾城記

□第二幕
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永く生き物の絶えた大地に、愚者の街が如く天高く聳える石塔があった。
枯れた地表には蜘蛛の巣のようなひび割れが走り、根まで枯れた草がカサカサと己が身を削る音だけを響かせる。

悠然と見下ろす月の、嘆き哀しむような蒼が辺りを染めると吹き荒ぶ風すら凍りつき、屈強な塔だけがかろうじて存在しているようだった。

おかしなことに、頑強な石を組み上げたその塔にある窓は極端に少ない。そしてその一つ一つはかなり離れていて、とても生活をする為の物とは思えない造りをしていた。

ここは関永平原。
平原とは名ばかりの荒れ野に建つこの塔こそ、興殷太上京で最も恐ろしいと伝えられる牢獄である。

しかし、最も恐ろしい牢獄とは言いながらも、ここでは尋問も拷問も行われない。
なぜなら昼と夜の寒暖が激しいこの地では拘留されること自体が生き物にとって地獄なのだ。

だがこの牢獄の中にもただひとつ、静かに、そして確かに繋がっている命があった。

恐ろしき陸の孤島に戒められて尚、生来の気高さを失わないその美貌は霞むどころか更に磨きぬかれゆき、白磁の面には艶やかな朱色の唇が品良く引き結ばれていた。
流れる黒髪を闇夜を紡いで織ったヴェールの如く石畳に広げ座す彼女には、高き天窓から覗く真円の蒼月すらがその光によって守り輝かせる。

この美女こそ『白鵬』その人である。
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