万栄傾城記
□序幕
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時は昔。東の大国にそれは見目美しい『白鵬』という女がいました。
深い教養を持ち、その白磁のごときなだらかな喉から紡がれる声は迦陵頻伽のようであるという。
噂を聞きつけた数々の諸侯、すえは美貌の女好家までが言い寄っても、女は無下に袖にするばかりで誰一人相手にしません。
口さがない人々がさらに噂を続ける中で、次に現れたのは時の権力者でした。
一介の農民では一生かかっても買えない豪奢な着物。
色とりどりの宝石がちりばめられた簪。
1つの村で食べても困らないだけの食料。
そんな度重なる帝の贈り物にも、女は頑として首を縦に振らず、ただの一度たりとて微笑みすら見せなかったのです。
そうなると人々は勝手なもの。
決して自らになびかぬ女を今度は化け物と蔑み、ついには女にあらぬ罪を着せては捕らえ、広大な荒野の牢獄に閉じ込めてしまいました。
ただの高飛車な女なら泣いて許しを乞うたことでしょう。
けれど女は身に覚えのない罪で監獄へ送られても取り乱すことなく、一雫の涙も流すことはありませんでした。
やがて民は口々にこう噂します。
「女は必ず復讐に来る」
それは天地動乱、断首神君太上天帝の時代の御噺。