短編

□雨の降る日に。
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時々、自分の血が憎く思える。



戦闘種族。

透き通るような白い肌。

晴れた日にもさす雨傘。

そして親殺しの風習。

夜兎族特有のこと。



もし自分が夜兎族じゃなかったら?

地球にいる人間のような生き物だったら?

今頃家族で笑い合えたのだろうか。



昔親を殺そうとしたことがあった。

親殺しの風習があったことを知った俺は、父親を殺そうとした。

気がつけば、俺の前にいたのは瞳孔が開ききって俺を殺そうとする父親と、泣き叫ぶ妹。

父親の左腕がなくなっていた。

俺が奪ってしまったのだ。

怖くなった。

自分が。

自分の血が。

またいつ父親を殺そうとするかわからない。

またいつ妹を泣かせてしまうかわからない。

だから俺は家を出た。

そして家を出るときに妹が言った。


「どこに行くアルか?」


妹は目尻に涙を浮かべていた。


「遠いところさ。」


雨が降っていた。


「いつ帰ってくるアルか?」


妹は傘をささずにかっぱを着て、長靴を履いて、


「わからない。」


ああ、髪が濡れている。


「行かないでヨ、私一人にしないで」


拭いてあげなきゃ、風邪を引いちゃう。

でも、もう手を伸ばすことは許されない。

そして咄嗟に出た言葉。


「弱い奴には興味ないんだ。」


こんなこと言うつもりじゃなかったのに。


「お兄ちゃんっ…行かないでっ…。」


傘で顔が見えないようにゆっくりと振り向いた。

この涙が見えないように。

妹も涙を流していた。

その大きな瞳からポロポロと大粒の涙を流していた。

俺は歩き出した。

決して振り返ることはせず、自分の道を歩いた。



歩き続けろ。

自分の道を。

立ち止まるな。




俺は闘う。

強いものと。

弱いものはいらない。

俺は強いから。


たとえそれが親だろうが師だろうが構わない。
…たとえそれが、妹だろうが。


俺は戦う。

自分と。

こんな血いらない。

俺は強いから。

だからこんな血なんていらない。


でもやっぱり、必要なんだ。

だってそれは、

俺の歩む道は夜兎の血で真っ赤に染まっているから。


俺はこの血から逃げられない。

それなら…
俺はこの血で闘う。


血の…
命ずるままに…。





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